おはようございます。 今日は「今週1週間(8/22〜8/28)の資金調達PJのまとめ」です。
💥調達金額上位5プロジェクト
1、Fasset
概要:ステーブルコインを土台に置いた「国境のない銀行」を名乗るネオバンク(店舗を持たないデジタル専業銀行)です。本体のプロダクトは Own Network で、銀行・決済事業者・流動性提供者などの金融機関を100以上の銀行コリドー(国と国のあいだの送金経路)でつなぐ規制対応済みの金融インフラだと説明されています。今回のラウンドの主役は金額よりリードの顔ぶれで、日本の SBI Group がリードを取りました。The Block と同社の公式ブログによれば、この$68Mで評価額は$1Bに達し、いわゆるユニコーンになりました。同社の説明では年換算の取引高が$40B超、顧客の所在国は125か国。CEO の Mohammad Raafi Hossain 氏は売上が6倍になり、直近12か月は黒字を維持していると述べています。今年に入ってからの調達は5月の Series B $51M と合わせて$119Mです。資金の使途はコリドー・バンキング、ステーブルコイン決済、トークン化資産まわりのAI活用と、Own Network の拡張。ここで押さえておきたいのは、ステーブルコインの発行体ではなく送金経路の側に大きな金が付いた点です。今週いちばん大きな1件が、トークンでもチェーンでもなく決済の配管だったのは、この1年の流れをそのまま表しています。なお本社所在地はロサンゼルスと報じられていますが、同社はドバイ発の会社として知られており、報道によって書き方が割れます。
カテゴリ:Payment, Stablecoin, Banking, Infrastructure
調達額:$68M
投資ラウンド:Series C
投資家:★SBI Group(リード)、ほか(既存投資家を含む詳細な陣容は公表資料からは特定できていません)
発表日:8/24
2、Hivemind Digital Group
概要:トークン化(tokenization=株式や債券などの資産をブロックチェーン上の持分として発行し直すこと)のインフラを手がけるグループです。PR Newswire に出た公式リリースによれば、$17M の戦略ラウンドを英国の資産運用会社 M&G Investments のリードでクローズしました。参加したのは CPIC Investment Management (HK)、ZA Bank、FalconX、Sonic Boom Ventures ほかです。この並びが今回の読みどころで、伝統的な運用会社(M&G、CPIC)・デジタルバンク(ZA Bank)・暗号資産のプライムブローカー(FalconX)が1つのラウンドに同居しています。リリースの言い方を借りれば、伝統資産とデジタル資産の両方について「どう組成され、どう運用され、どう届けられるか」を作り替えうるインフラの展開を加速させる、というのが資金の位置づけです。要は、トークン化を語る側ではなく実際に資産を持っている側が出資者として入ってきた案件で、Fasset と同じく「配管に金が付く」週の流れに乗っています。なお公式サイトの表記は Hivemind Capital 系のドメインで、報道各社が使う社名(Hivemind Digital Group)とブランド名が完全には一致しません。
カテゴリ:RWA, Tokenization, Infrastructure, Asset Management
調達額:$17M
投資ラウンド:Strategic
投資家:★M&G Investments(リード)、CPIC Investment Management (HK)、ZA Bank、FalconX、Sonic Boom Ventures、ほか
発表日:8/25
3、City Protocol
概要:ストラクチャード・プロダクト(structured product=複数の金融商品を組み合わせて特定のリスク・リターンの形に仕立てた商品)をオンチェーンに載せるプロジェクトです。crypto.news が伝えた 8/26 の発表によると、シードと Pre-A を合わせて$11Mを調達しました。参加したのは Dragonfly、Jump Crypto、CMT Digital、Stratified Capital、Adaverse、Mirana ほかです。構成は3層で、トークン化の層、ボールト(vault=資金を預けて運用する箱)の運用層、そして商品の発行・配布層。ユーザーが触る入口が Venzo で、クオンツ・ヘッジ、取引所間のアービトラージ(裁定取引)、プライベートクレジット、オンチェーンのイールドという4つの戦略ボールトが並び、TVL(Total Value Locked=預け入れ資産の総額)は$40Mに達したと説明されています。同社の主張は「これまで機関投資家やプロにしか開かれていなかった戦略を誰でも触れるようにする」というもので、Dragonfly と Jump Crypto という2社が入っていること自体が、この主張のうち少なくとも執行の部分は本気だという傍証になります。なお金額の表記は割れていて、資金調達データベース側にはこの案件が「$7M / Pre-Series A(投資家6社)」として登録されているものもありました。ここでは公式発表を伝えた報道に合わせて、シード+Pre-A の累計$11Mを採ります。
カテゴリ:DeFi, RWA, Asset Management, Infrastructure
調達額:$11M(シード+Pre-A の累計。データベース上の登録は Pre-Series A $7M)
投資ラウンド:Seed + Pre-A
投資家:Dragonfly、Jump Crypto、CMT Digital、Stratified Capital、Adaverse、Mirana、ほか(リードの明示は確認できていません)
発表日:8/26
4、Oro
概要:やりたいことを普通の言葉で書くと、それを複数ステップのオンチェーン取引の経路に翻訳して実行してくれる、という金融向けAIプラットフォームです。TNW や公式のプレスリリースによると、$3Mの戦略ラウンドを MH Ventures と Mapleblock Capital の共同リードでクローズしました。参加は M2M Capital、Archer Capital、X21 Digital、それに既存の Disrupt.com と ZIG Labs。累計調達は$4Mになります。特徴として挙げられているのが Shield Engine と呼ぶ独自の検証機構と、ノンカストディアル(non-custodial=運営が資産を預からず、署名は常にユーザー本人が行う)構成であること。数字も出ていて、この1年ほどで80以上の言語にまたがる35万人超のユニークアクティブユーザーを獲得し、Avalanche との教育キャンペーンで25万件超の検証済み完了、Ondo Finance とのキャンペーンでは初日24時間だけで5万件超を記録したとしています。目標は1,000万ユーザー、iOS / Android のネイティブアプリ、アドバイザリーボードの増強。「エージェント型金融(agentic finance)」というラベルの下に実際のユーザー数が付いている数少ない例で、今週のなかでは金額のわりに読みどころのある1件でした。拠点はドバイと報じられています。
カテゴリ:AI, DeFi, Asset Management, Wallet
調達額:$3M
投資ラウンド:Strategic
投資家:★MH Ventures(共同リード)、★Mapleblock Capital(共同リード)、M2M Capital、Archer Capital、X21 Digital、Disrupt.com、ZIG Labs
発表日:8/25
5、Nara
概要:ステーブルコインをネイティブに扱うクレジット(信用・貸付)プロトコルです。8/26 に Pre-Seed の完了が伝えられ、金額は$500k、出資は YZi Labs(旧 Binance Labs)でした。今週いちばん小さい案件で、同時に今週いちばん裏付けが薄い案件でもあります。プロジェクトの公式サイト・公式ブログ・プレスリリースのいずれも特定できておらず、根拠は資金調達データベースの登録と、それを引いた集計記事だけです。事業の中身についても「ステーブルコイン・ネイティブなクレジット・プロトコル」という一文以上のことは確認できませんでした。ここでは件数の網羅性のために載せていますが、他の4件と同じ強度の情報ではありません(上のリンクも公式HPではなくデータベース側を指しています)。YZi Labs は同じ8月に、Strategy のデジタルクレジットを裏付けにした利回り付きステーブルコイン USDat を作る Saturn へ$800kを出しており(Sora Ventures と共同)、小口で数を打つ動き自体は続いています。ステーブルコインを前提に信用を組む、という方向にシード段階の資金が入り続けているのは確かです。
カテゴリ:DeFi, Stablecoin, Lending
調達額:$500k
投資ラウンド:Pre-Seed
投資家:YZi Labs(旧 Binance Labs)
発表日:8/26 ※一次ソース未特定。データベース登録と集計記事のみが根拠です
今週の見立て
今週は全5件、開示された金額の合計は$99.5Mでした。前号(8/15〜8/21)は9件・開示6件で$24.336Mでしたから、件数は減って金額は4倍です。増えたぶんのほぼ全部は Fasset の$68M と Hivemind の$17Mの2件で、この2件で$85M、全体の85%を占めます。
その2件が同じ方向を向いているのが今週の見どころです。Fasset は100超の銀行コリドーをつなぐ決済インフラ、Hivemind はトークン化のインフラ。どちらもトークンを出す側ではなく、資産と資金が通る配管の側です。そして出資者の顔ぶれがもっとはっきりしています。Fasset のリードは SBI Group、Hivemind のリードは M&G Investments で、そこに CPIC、ZA Bank、FalconX が並びました。クリプトVCの名簿ではなく、金融機関の名簿です。今年の crypto VC を振り返る記事が「ウォール街が$11.2Bの小切手でクリプトのルールを書き換えた」と書いていましたが、今週の上位2件はまさにその文脈の上にあります。金額の大小より、誰の金かが変わった週でした。
下位3件は別の話をしています。City Protocol、Oro、Nara の3件はいずれも$11M以下で、共通しているのは「これまでプロにしか開かれていなかった金融の操作を、普通の人が触れる形にする」という主張です。City Protocol はストラクチャード・プロダクトをボールトの形にして Venzo に並べ、Oro は自然言語のプロンプトを取引経路に翻訳し、Nara はステーブルコインを前提に信用を組もうとしています。Oro が出している35万ユーザー・80言語という数字は、この手の「エージェント型金融」の主張のなかでは珍しく具体的で、しかもキャンペーン起点だと自分で開示しているぶん読みやすい数字です。上位2件が機関投資家側の配管に金を集め、下位3件が個人側の入口に小口で金を集める。今週はその2層がきれいに分かれました。
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