おはようございます。
今日は「Screenpipe」をリサーチしました。
概要|Screenpipeとは?
変遷|OSSの人気ツールから、YC発の”記憶+自動化”企業へ
考察|「AIの記憶層」という賭けは成立するか
TL;DR
Screenpipeは、画面・音声・操作を24時間ローカルで記録し、検索可能な「作業メモリ」に変えてAIエージェントに渡すデスクトップアプリです。
開発元はYC Summer 2026 採択のMediar, Inc.(創業者Louis Beaumont、チーム6名、サンフランシスコ)。GitHubで人気を集め、Rewind/Microsoft Recallの「セルフホスト可能な代替」という立ち位置です。
ただし2026年6月9日にライセンスをMITからsource-available(商用は有料)へ変更し、「オープンで自分のデータを所有」という初期の訴求とは緊張関係に入りました。常時録画の同意問題、”ローカルだから安全”の実効性、そしてこの領域自体のユニットエコノミクスの未証明——冷静に見るべき論点が多いプロジェクトです。
概要|Screenpipeとは?
Screenpipeは、あなたがPCで見ているもの・聞いているもの・操作したことを24時間ローカルで記録し、それを全文検索できる「作業の記憶(workflow memory)」に変えるデスクトップアプリです。そして、その記憶をAIエージェントに文脈として供給することを最大の目的にしています。
一言でカテゴリを言い切るのが難しいプロダクトで、実際には複数の顔を持っています。
ローカルAI/オンデバイス処理(データを端末の外に出さない「100% local」を標榜)
画面録画 × AI(AIスクリーンレコーダー、画面の記憶)
ライフログ/パーソナルメモリ層(デスクトップのためのローカルな記憶層)
AIエージェント基盤(録画データをエージェントに供給し、多数のアプリと連携)
立ち位置としては、Rewind(現Limitless)やMicrosoft Recallといった既存ツールの「セルフホスト版」を自称してきました。なお、この「オープンソース」という看板は後述のとおり2026年6月に後退しています。
◼️解決する課題
Screenpipeが埋めようとしているのは、ざっくり言えば「AIは賢くなったのに、あなた自身の文脈を何も知らない」というギャップです。
高性能なAIエージェントが登場しても、あなたが今日何をやり、誰と何を話したかを知らないため、本当に役立つ秘書にならない
会議・調査・作業のログはその場で消えていくか、手作業でメモに残すしかない
クラウド型のライフログツールはデータを外部に預ける不安があり、企業では使いにくい
「AIが賢くなるほど、あなたの全文脈を持つ”記憶”が効いてくる」——この前提に賭けたのがScreenpipeです。
◼️プロダクトの柱
1. キャプチャと記憶
画面・音声・操作を記録し、SQLite+FTS5(全文検索)で検索可能な形に蓄積します。テキストはまずOSのアクセシビリティ情報から拾い、取れなければOCRにフォールバック。音声はローカルに文字起こしします。データは端末内で処理する「ローカルファースト」設計で、ローカルAPI経由で自分の作業履歴を検索・参照できます。
2. pipes(パイプ)というプラグイン機構と開発者API
Screenpipeの拡張は “pipes” と呼ばれ、録画データにアクセスするAIエージェントを載せられます。開発者は REST API+MCPサーバー を使って「全画面の文脈を持つAIアプリ」を自作できます。
3. プライバシー設計(redaction)
Screenpipeは、パスワードやAPIキーなどの機微情報を保存前に検出・除去する「redaction」機能を掲げ、デフォルトでオンにしていると説明しています。アプリ/ウィンドウ/URL単位の除外設定も用意されています。ただしこの秘匿精度に関する主張は自己申告で、第三者検証は見当たりません。
◼️できること
具体的なユースケースはこんな形です。
作業履歴の自然言語検索:「今月、価格について聞いてきたのは誰?」のように、過去の画面や会話を問い合わせる
会議記録の自動化:会議を検知して自動でメモ生成・文字起こし
バックグラウンドエージェント:CRM更新、ディール追跡、作業手順(SOP)化
アプリ連携+エージェント基盤:ノートアプリや各種SaaSと連携し、「文脈を持ったエージェント」を構築
変遷|OSSの人気ツールから、YC発の”記憶+自動化”企業へ
◼️創業背景
ScreenpipeはRust製のOSSとして出発し、GitHubで人気を集めました。当初は価値提案が曖昧だったものの、市場の反響に従って「録画」から「自動化(エージェント)」寄りへ舵を切った、という経緯が語られています。
◼️創業者プロフィール
Louis Beaumont(ルイ・ボーモン): 創業者。YCの企業ページでは単独創業者として記載されています
会社はMediar, Inc.、拠点はサンフランシスコ、チーム6名です。
◼️創業からのタイムライン
Rust製OSSとしてScreenpipeを公開、GitHubで人気化
2026年5月: YC Summer 2026 採択を公式ブログで告知
2026年6月9日: ライセンスをMIT→”Screenpipe Commercial License”(source-available)へ変更+サブスク開始
2026年6月下旬: 会議メモ改善、モバイル同期などを追加
GitHub org移管:
mediar-ai/screenpipeから独立orgscreenpipe/screenpipeへ
◼️ビジネスモデルとライセンス転換(重要)
Screenpipeの最大の転機は、2026年6月9日のライセンス変更です。MITライセンスから独自の “Screenpipe Commercial License” へ移行しました。公式の説明を引用すると:
個人・非商用・教育・研究目的の利用は無料、加えて規模を問わず7日間の評価が可能。ただし評価期間を超える商用・本番利用には有料ライセンスが必要
理由についても率直に書いています。
オープンソースそれ自体はビジネスモデルにならない。企業がscreenpipeを本番で使って収益を上げる一方、何も還元せず、小さなチームが信頼性と改善のためのすべてを負担している。これは持続可能ではない
そして公式自身が「source-availableライセンスは厳密な定義でのオープンソースとは同じではない」と認めています。つまり今のScreenpipeは、正確には”オープンソース”ではなく”source-available”です。ここは紹介する側も間違えやすいので、はっきりさせておきます。
◼️もう一つの顔:Terminator
見落とせないのが、同社が Terminator というデスクトップ自動化SDKも走らせていることです(Rust製)。「文脈を貯めるScreenpipe」と「操作を実行するTerminator」——同社は「記憶」+「自動化」の2枚看板になっている、というのが実像です。
◼️競合プレイヤー
Rewind → Limitless: Rewindは「ローカルMacアプリとしてパーソナルメモリを切り拓いた」プロダクトでしたが、チームがLimitlessへピボットした際に終了しました。Limitlessは$99のウェアラブル・ペンダント+クラウド前提のサービスで、対応はMac/Windows/iOS(Linuxなし)、文字起こし・要約はクラウドで実行、開発者向けのAPIやプラグイン機構はなし、とされています
Microsoft Recall: Windows組込みの画面想起機能(プライバシー論争の当事者)。Screenpipeはクロスプラットフォーム&セルフホスト可を対置します
会議メモ特化ツール(Granola / Otter.ai 等): 会議に絞った文字起こし・要約が中心。Screenpipeは会議に限らない「全画面の文脈」が売り
Screenpipe: ローカルファースト・3OS対応・REST+MCPでエージェントを載せられる開発者基盤、が持ち味。ただしライセンス転換で「オープン」の看板は弱まりました
考察|「AIの記憶層」という賭けは成立するか
結論から言うと、Screenpipeは技術的な作り込みとコミュニティの初速は本物だが、「常時録画の記憶層」というカテゴリ自体がまだ勝ち筋を証明できていないプロジェクトです。応援したい理由と、身構える理由が両方はっきりしています。
◼️強み
クロスプラットフォーム×ローカル完結: LimitlessがMac/Windows/iOS中心・クラウド前提・API無しで進むなか、mac/Windows/Linuxすべてでローカル処理+開発者APIという設計は明確な空白を突いています。
開発者フレンドリーな基盤: REST API+pipes+MCPサーバーという構成は、「全画面の文脈を持つAIアプリ」を作りたい開発者にとって扱いやすい。ここがコミュニティの支持を集めた核です。
記憶と実行の両輪: Screenpipe(記憶)とTerminator(自動化)を併せ持つことで、「文脈を貯める→それを使って操作する」という一気通貫を狙える。エージェント時代のテーマ設定としては筋がいい。
◼️弱み・リスク
常時録画の同意問題: 画面と音声を24時間捕捉すれば、会議相手・同僚・家族が録画に同意していないケースは必然的に生じます。「ローカルだから安全」は保存場所の話であって、録る行為そのものの同意は解けていません。片面録音の合法性は国・地域によります。
“ローカル=安全”の実効性: 機微情報の秘匿(redaction)はローカルモデル頼み。精度に関する主張は自社申告で第三者検証がありません。redactionが漏れれば、パスワードやAPIキーが平文でローカルDBに残るリスクがあります。
OSS看板の後退: MIT→source-availableへの転換で、「オープンで自分のデータを所有」という初期の訴求と商用有料化が緊張関係に入りました。フォークが生まれやすい構造で、コミュニティ信頼の流出リスクを抱えます。もはや”オープンソース”と紹介するのは正確ではありません。
カテゴリ自体の未証明: 常時録画系は、ストレージ肥大・CPU/バッテリー負荷・大量スクショからの想起精度、というユニットエコノミクス上の課題を普遍的に抱えます。Rewindのローカル版が畳まれたこと自体、この領域の難しさを示唆しています。
◼️個人的な見解
Screenpipeを見ていて面白いのは、「AIが賢くなるほど、あなたの文脈を持つ記憶が効く」という前提が、そのまま最大のリスクにもなっている点です。
というのも、この前提が正しければ正しいほど、OS・ブラウザ・大手AIが同じ機能を標準搭載してくる動機も強くなる。Microsoft Recallはまさにそれです。つまりScreenpipeは「大手が本気を出す前に、開発者コミュニティとローカル志向のユーザーを押さえられるか」という時間との競争をしている。ライセンス有料化も、その収益化を急いだ動きと読めます。
見どころは、「記憶層」単体で戦い続けるのか、それともTerminatorと組んだ”記憶→自動化”のワークフローで独自価値を出せるかだと思います。
個人的には、単なるライフログとしてより、「エージェントに渡す文脈ソース+実行手段」のセットとして見たほうが、このプロジェクトの本当の狙いが見えてきます。面白そうなプロジェクトではあるのですが、やはり24時間記録はセキュリティの問題と切り離せず、難しいな..と思ってます。
参考リンク
公式サイト: screenpipe.com
会社概要: screenpipe.com/about
ライセンス更新の説明: Screenpipe License Update
Limitless比較: screenpipe.com/compare/limitless
YC企業ページ: ycombinator.com/companies/screenpipe
姉妹プロジェクトTerminator: github.com/mediar-ai/terminator
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