おはようございます。
今日は「Robinhood Chain」をリサーチしました。
概要|Robinhood Chainとは?
変遷|「取引停止」から「自前チェーン」までの12年
考察|株のトークン化は”2つのモデル”に割れる
TL;DR
Robinhood Chainは、米ネット証券Robinhoodが構築したRWA特化のEthereum L2(レイヤー2)で、2026年7月1日にロンドンでパブリックメインネットが稼働しました。基盤はArbitrum Orbit+Nitroスタック。同時に24/7のトークン化株式、Lighterによるperps(無期限先物)、AIエージェント取引を発表しています。
肝は「Robinhoodが他社チェーンの利用者から、自社チェーンの運営者へと垂直統合した」こと。取引・発行・決済・保管までを自前で握りにいく賭けです。トークン化株式(tokenized debt securities)は原株の値動きへのエクスポージャーを与える一方、原株や発行体への法的・受益的権利は付与しないという構造が論点になります。
ほぼ同日に競合Ondoもトークン化株を発表し、市場は「投資家の権利が異なる2つの米国モデル」に割れました。米国リテールはSECの枠組み待ちで未開放、提供はEU/EEA中心という規制アービトラージの色も濃い一社です。
概要|Robinhood Chainとは?
Robinhood Chainは、Robinhoodが自前で立ち上げたRWA向けに最適化したEthereum L2です。
2026年7月1日、ロンドンの旧王立海軍大学で開かれたイベント「Robinhood Presents: The World is Flat」で、Vlad Tenev(CEO)とJohann Kerbrat(暗号資産・国際部門のSVP兼GM)がパブリックメインネットの稼働を発表しました。
なぜ今このタイミングで取り上げるかというと、単なる新チェーン公開ではなく、24/7のトークン化株式・perps・AIエージェント取引という「実際に売買できる中身」を同時に載せてきたからです。
証券会社が自分のブロックチェーンを持ち、そこに株式のトークンを流す、伝統金融とオンチェーンの境界を、実サービスとして踏み越えにきました。
◼️解決する課題
株式取引の時間的制約: 従来の株式市場は平日の限られた時間しか動きません。Robinhoodはトークン化によって、これを24時間365日の取引へ広げようとしています。
既存インフラを他社に握られる不利: これまでRobinhoodのクリプト機能は他社チェーンに依存していました。自前L2を持てば、取引・決済・保管のスタックを垂直統合でき、コストとスピードを自社で握れます。
RWAをオンチェーンに載せる土台の不在: 株式・ETFといった現実資産を、コンプライアンスを保ったままトークン化して流通させる基盤が業界に不足していました。
◼️プロダクトの柱
1. RWA特化のL2(Arbitrum Orbit+Nitro)
Robinhood ChainはArbitrum開発元Offchain Labsと協業し、Arbitrum Orbit+Nitroスタック上に構築されたEthereum L2です。Offchain LabsのCEO Steven Goldfederもコメントを寄せています。同社はこれを「permissionlessでAIネイティブ」なRWA向けチェーンと位置づけています。
2. 24/7のトークン化株式(Stock Tokens)
発行体はRobinhood Assets (Jersey) Limited。中身はトークン化債券で、原株の値動きを与えるものの、原株そのものや発行体に対する法的・受益的な権利は付与しません。AAPL・MSFT・NVDA・TSLA・AMZN・METAなどの個別株や、SPY・QQQといったETFが対象です。従来は週5日×24時間だった提供が、Chain上で24/7へと広がります。
3. perpsとAIエージェント取引
メインネットと同時に、Lighterによるperps(無期限先物)と、クリプトのエージェント取引が発表されました。AIエージェントがオンチェーンで取引を実行できる設計を、当初から前面に出しています。
◼️Day1のエコシステム
初日から複数のDEX・perpsプロトコルが参加しました。Uniswapは専用AMMで一次公開流動性を担い、プロップ取引の主要会場として独自AMM「Pleiades」(Robinhood本体とは別主体)も参加します。
Arcus(dYdXチームが開発)は95銘柄のトークン化株式とperpを24/7で提供、Lighterはperpsで最初の90日を手数料無料(チェーン全体でガス無料期間)とし、LITトークンで1,100万ドル相当をRobinhoodユーザー向けに拠出します。
ほかにRialto・1inchも名を連ねます。統合パートナーはAlchemy(開発ツール)・Chainlink(オラクル)・LayerZero(クロスチェーン)・TRM Labs(コンプライアンス)・BitGo(カストディ)・Alliumなど。メインネット告知ではAlchemy・BitGo・Chainlinkとの深い統合が強調されました。
変遷|「取引停止」から「自前チェーン」までの12年
Robinhood Chainは、2013年創業のネット証券が積み上げてきた12年の延長線上にあります。とりわけ象徴的なのは、2021年に取引を”止めた”会社が、いま「自己保管・24/7」を掲げているという対比です。
◼️創業背景・沿革
Robinhoodは2013年4月、Vlad Tenevと Baiju Bhatt が創業しました(両者ともスタンフォード卒、前身はChronos Research)。手数料無料の株取引で急成長し、リテール投資のあり方を変えた一社です。
2013年4月: 創業(Tenev・Bhatt)
2021年1月: GameStopのショートスクイーズで取引制限を実施 → 議会公聴会に発展
2021年7月: IPO(時価総額 約320億ドル)
2024年3月: Bhattが執行役を退任し取締役会へ、Tenevが会長兼CEOに
2024年6月: ルクセンブルクの取引所Bitstampの買収を発表(2025年クローズ、買収額 約2億ドル=$200M)。EUでのperpsの足場に
2025年6月30日: カンヌの「To Catch a Token」でトークン化株式とChain構想を発表
2026年2月10日: パブリックテストネット稼働
2026年7月1日: ロンドンでメインネット・24/7株・エージェント取引を発表
2021年1月のGameStop騒動で取引を制限し公聴会に呼ばれた会社が、4年後に「自己保管・年中無休」を旗印にする、この振れ幅こそ、Robinhoodの現在地を映しています。
◼️テストネットの実績
2026年2月10日に稼働したパブリックテストネットは、稼働1週間時点でTenev・Kerbratが共有した数字によれば、初週で約400万トランザクション・60万超のスマートコントラクトがデプロイされました。
インフラにはAlchemy・Allium・Chainlink・LayerZero・TRMが並びます。Arbitrum Open Houseに100万ドルをコミットし、NYC・ドバイ・ロンドン・シンガポールでbuildathonを展開しました。
◼️Stock Tokensの初出と広がり
トークン化株式の初出は2025年6月、カンヌのイベント「To Catch a Token」でした。200を超える米国株・ETFのトークンを、当初はEU/EEA向けに提供する形です(発行はMiFID II下のRobinhood Europe)。現在は120カ国超で利用可能とされますが、米国・カナダ・英国・スイス・UAEなどは対象外で、EU/EEAが中心です。ここが後述の規制論点に直結します。
◼️業界全体の変遷:RWAとトークン化株式の急伸
RWA全体の時価総額は2026年前半で約320〜510億ドル。うちトークン化株式は2025年初〜2026年6月で約422%増、YTDで7億→16億ドル、6月の月次transfer volumeは約53億ドルに達したとされます。
中長期ではRipple/BCGが2033年に18.9兆ドルという予測も出しています。構成比はプライベートクレジットが約47%、米国債が約30%、コモディティが約9%。株式のトークン化は、この大きな潮流の一角として一気に注目を集めました。
◼️競合プレイヤー(※以下はDEBUNK側の文脈整理)
Ondo(Global Markets): 2025年9月稼働。8か月弱でTVL10億ドル超、260超の米株/ETFをSEC準拠トークンとして展開。2026年7月2日にBlackRock IVV・Micron株のSEC準拠トークンを発表し、Robinhoodとほぼ同日に「権利の異なる2モデル」を並立させました
xStocks / Backed: Kraken連携で、スポットの株式トークンで先行
Securitize: 記録上の発行者として機関向けに強く、自社のNYSE上場株SECZもトークン化
Coinbase / Base: Centrifugeを優先トークン化基盤に選定・出資
Injective・Centrifuge・Plume: RWAネイティブの基盤勢
Robinhood Chain: 証券リテールの巨大な顧客基盤(約2,800万人・38カ国)を土台に、取引から発行・決済・保管まで垂直統合する点が立ち位置。ただし上記の直接比較はRobinhood一次ソースにはなく、あくまで整理です
考察|株のトークン化は”2つのモデル”に割れる
結論から言うと、Robinhood Chainは「垂直統合の物語としては強みがありますが、”投資家の権利”と”米国での提供”に大きな疑問が付く」プロジェクトだと見ています。
◼️強み
垂直統合の座組み: 他社L2の住人から自社L2オーナーへ。取引・発行・決済・保管を自前で握れば、コスト・スピード・体験を一気通貫で設計できます。約2,800万人という既存顧客基盤は、他のRWA勢にはない最大の武器です。
Day1で”動く”エコシステム: Uniswap・Arcus・Lighterなどが初日から流動性とperpsを提供し、プロップ取引向けAMM「Pleiades」も参加。単なる技術発表でなく、実売買できる中身が揃っている点は評価できます。
本気の技術・コンプラ布陣: Offchain Labsとの協業、Chainlink・BitGo・TRMといった実力派の統合は、「思いつき」ではない準備の厚みを示します。
◼️弱み・リスク
“権利なし”の構造リスク: トークン化株式はtokenized debt securitiesであり、原株や発行体への法的・受益的権利を与えません。2025年のOpenAI騒動(後述)が示すように、この構造は誤解と反発を招きやすい弱点です。
米国リテール未開放という規制の壁: 提供はEU/EEA中心で、米国はSECの枠組み待ちです。規制アービトラージの側面が濃く、最大市場である米国での本開放は不確実です。
競合との”モデル分裂”: Ondoがほぼ同日にSEC準拠トークンを打ち出したことで、「権利の異なる2つのモデル」が並立しました。どちらが標準になるかは未確定で、Robinhoodモデルが劣後する可能性も残ります。
◼️OpenAI騒動という象徴
つまずきの典型が、2025年6月のカンヌ発表です。Robinhoodは非公開企業のOpenAIやSpaceXの「株」のトークン化まで提示しましたが、OpenAIが7月にX上で「これはOpenAIのエクイティではない。提携も承認もしていない」と明確に反論しました。実体はSPV(特別目的会社)が保有する非公開株へのラップされたエクスポージャーで、EU主管のリトアニア中銀も説明を求める事態に。米国ではSECがトークン化株の枠組みを未承認で、リテール対象外のままです(2026年1月にはSEC Corp Financeがトークン化証券に関する声明を出しています)。
◼️個人的な見解
Robinhood Chainの物語は、とてもよくできています。そして他社L2の住人から自社チェーンのオーナーへという垂直統合、2026年のRWAナラティブのど真ん中を突いています。
ただ、ここがポイントで、「株のトークン」と言っても、投資家が手にするのは”値動きへのエクスポージャー”であって、株主としての権利ではない。同日に出たOndoのSEC準拠モデルとは、投資家が得るものが根本から違います。
追いかけるなら、①米国リテールへの開放がSECの枠組みとともに進むか、②「権利なし」モデルと「SEC準拠」モデルのどちらに流動性が集まるか、③OpenAI騒動のような開示・権利トラブルが再燃しないか、この3点になりそうです。
とはいえ顧客基盤を持つフィンテックアプリのオンチェーン統合はとても楽しみなので情報は追いかけていきたいと思います。
参考リンク
公式サイト: robinhood.com/chain
メインネット告知: Robinhood accelerates global expansion with Robinhood Chain mainnet(Robinhood Newsroom)
テストネット告知: Robinhood Chain launches public testnet(Robinhood Newsroom)
報道: The Block
Stock Tokensの仕組み: About stock tokens(Robinhood EU Support)
OpenAI騒動: Robinhood stock tokens face scrutiny in the EU after OpenAI warning(CNBC)
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