おはようございます。 今日は「RL1(Regulated Layer One)」をリサーチしました。
概要|RL1とは?
変遷|3年動いてきたネットワーク
考察|変わったのは技術ではなく、名義です
TL;DR
RL1(Regulated Layer One) は、2026年7月28日にルクセンブルクで発足した、金融機関だけが参加できるブロックチェーンです(SWIATのプレスリリース)。新しいチェーンではなく、独フィンテック SWIAT が3年動かしてきたネットワークを欧州の10機関が引き継いだものです。
10か月で件数が40超→50超、金額が€600m超→€700m超。ならすと月に約1件で、銀行間の証券決済としてはかなり少ない数字です。月60〜70件を処理していた信用状のネットワーク Contour ですら「少なすぎる」として2023年11月に畳まれています。
概要|RL1とは?
RL1は、ざっくり言えば「免許を持った金融機関だけが入れる、閉じたブロックチェーン」です。誰でも参加できるビットコインやイーサリアムと違い、参加者を運営側が承認します。扱うのは、トークン化した債券やファンドといった RWA と、担保・レポ取引・デジタルマネーです。
押さえておきたいのは、これが「欧州の大手銀行10行が新しいチェーンを作った」話ではないことです。RL1が動かすネットワークは、フランクフルトのフィンテック SWIAT GmbH が3年間動かしてきたもので、発表文も「本番稼働して3年」と書いています。
the fintech, together with these ten European financial institutions, has successfully completed the spin-off of its DLT network and will now hand over this network to the new, participant-led organisation.
金融機関がこれを欲しがる最大の理由は、一企業が握るインフラに証券決済を載せると、その企業の方針転換に引っ張られることです。2025年9月の発表文も「誰も不当な支配を及ぼさないガバナンス構造」を目指すと書いています。
発表日: 2026年7月28日(ルクセンブルク/フランクフルト)
法人: Regulated Layer One SCE, limited(RCS Luxembourg B310349)、代表は SWIAT から移籍した Henning Vollbehr。
創設10機関: ABN AMRO / Cecabank / Chartered Investment / Crédit Mutuel Alliance Fédérale / DekaBank / DZ BANK / LBBW / Natixis Corporate and Investment Banking / SC Ventures (Standard Chartered Bank) / Seturion (Börse Stuttgart Group)
◼️SWIATから何を受け継いだのか
ほぼ全部です。発表文は “SWIAT remains RL1’s key technology partner” と明言していて、技術運用は引き続き SWIAT GmbH が担当します。変わったのは、ネットワークの所有者が RL1 に移ったこと、法形態が SCE(欧州協同組合/Societas Cooperativa Europaea) になったこと、三層のガバナンス機関ができたことの3点だけです。
紛らわしいのですが、移ったのはネットワークの所有権であって、SWIAT GmbH という会社の株主ではありません。SWIAT の株主は DekaBank / LBBW / SC Ventures / Comyno の4社のまま変わりません。
◼️誰がネットワークを動かしているのか
バリデーターには、adesso SE / DekaBank / GFT Technologies SE / LBBW / NTT DATA Deutschland SE / SC Ventures / Sopra Steria SE / SWIAT GmbH の8社が並んでいます。
このうち DekaBank・LBBW・SC Ventures は SWIAT の株主で、8社目は SWIAT 本体。つまり8社のうち4社が、技術提供元そのものかその株主です。
2026年7月29日時点の rl1.network にあるのは参加者一覧・ガバナンス・用途・ニュースだけで、技術ドキュメント、ホワイトペーパー、GitHub、エクスプローラー、監査レポートのいずれも見当たりません。名前はわかるのに、何をどう検証しているかは読者側から確かめられない状態です。
変遷|3年動いてきたネットワーク
◼️同じ発表は、10か月前にも出ていました
SWIAT は 2025年9月29日に「Regulated Layer One」構想をすでに発表しており、今回はその SCE 法人化の完了報告です。
同じ発行体が10か月違いに2回、実績数値を出しているので、伸びが実数で見えます。2025年9月は稼働期間「2年超」・”more than 40 transactions”・€600m 超、今回は「3年」「50件超」「€700m超」。つまり10か月で件数が10増え、金額が€100m増えたことになります。ならすと月あたり約1件。3年の累計で見ても、50件を36か月で割ると月あたり約1.4件、1件あたり平均は約€14mです。
◼️創設10機関は、10か月で3社入れ替わっています
SWIAT GmbH の独立法人化が2022年2月2日、RL1構想の発表が2025年9月29日、今回の発足が2026年7月28日。この間に顔ぶれも変わりました。2025年9月時点の10機関のうち、KfW・NatWest・V-BANK が抜け、Cecabank・Chartered Investment・Crédit Mutuel Alliance Fédérale が入っています。数は10のままです。KfW と L-Bank は支援者に残り、NatWest は公式サイトでも “joining soon” 扱いで創設メンバーではありません。なお出資額・出資比率は非開示です。
◼️前例|銀行が集まって作ったチェーンには、墓場があります
「大手銀行が集まってチェーンを作る」というニュースは2016年ごろから繰り返され、そのかなりが畳まれています。いちばんわかりやすい比較対象が Contour です。信用状(L/C)のデジタル化を目指し9行が出資していたネットワークで、追加資金を確保できずに2023年11月に閉鎖されたと報じられています。閉鎖時の処理量は “Contour was processing just 60-70 transactions per month”。月60〜70件でも「少なすぎる」とされて銀行株主に見捨てられました。
RL1/SWIAT は公表値を割ると月あたり約1.4件です。信用状と債券発行では1件の性質が違うので単純比較はできませんが、Contour は9行、RL1 は10機関と組成の形はほとんど同じで、桁が2つ近く違います。
同じ構図で、貿易金融の we.trade(2022年6月に事業停止)と Marco Polo Network(2023年に支払不能)も畳まれたと報じられています。ただ畳まれた3件はいずれも貿易金融で、RL1が狙う債券発行やレポは1件あたりの金額が大きい点が違います。
◼️生きているプレイヤーと並べると
Broadridge の DLR(Distributed Ledger Repo/分散台帳を使ったレポ取引の仕組み) は2026年7月7日の発表で、6月の1日あたり平均が $357 billion、月間合計が $7.5 trillion。RL1 の3年分の累計 €700m 超は、Broadridge の日次処理量なら約3分で通過する規模です。JPMorgan の Kinexys は累計 $3 trillion 超です。
考察|変わったのは技術ではなく、名義です
今回起きたのは、3年動いてきた1社所有のネットワークが、10機関の協同組合のものになったということです。技術は変わっていません。処理量も、公表ベースでは10か月で10件増えただけ。
意味がないという話ではありません。単独企業が握るインフラへの抵抗は本物で、それを法形態で解こうとしたのがこの構想です。ただ「新しいチェーンが生まれた」という話とは別物です。
◼️強み
所有と技術供給を分離したこと自体は、正しい方向です。ASX の CHESS がベンダー管理の問題で止まったことを思えば筋が通っています
稼働実績のあるネットワークから始めています。ゼロから作れば動くまでに何年もかかります
バリデータを実名で公開しています。意外と珍しく、開示の姿勢はある方です
◼️弱み・リスク
公表数値の定義が、発表元の資料の中で揃っていません。取引が3年で50件のネットワークと、参加機関が50社いるネットワークは、まったく別のものです
処理密度が、畳まれた前例を下回っています。月60〜70件で畳まれた Contour に対し、RL1 は月あたり約1.4件です
読者側に検証の手段がありません。技術ドキュメントもエクスプローラーもない(2026年7月29日時点)ので、次に「60件・€800m」と言われても確かめようがありません
ガバナンスの実効性が、定款を見ないと判断できません。加えてバリデータ8社のうち4社が SWIAT 本体かその株主です
◼️個人的な見解
この構想を批判したいわけではありません。単独ベンダーが握るインフラを利用者の共同所有に移すのは、金融インフラの歴史ではむしろ王道です。
引っかかるのは、発表の内容と温度が合っていないことです。実際に起きたのは所有構造の変更で、発表文自身が “spin-off” と書いています。
今回の取り組みが本格稼働手前の準備なのか、過去の前例と同じくやった感だけ出して結局終わるのか、どうなるのかは今後の動きにかかっているので、何か大きな取り組みがあれば追いかけていきたいと思います。
参考リンク
公式: rl1.network / imprint
一次発表(2026年7月28日・PDF): SWIAT: RL1 Goes Live as a European Cooperative Society
一次発表(2025年9月29日・PDF、10か月前の同一構想): SWIAT: “Regulated Layer One” initiative
対抗馬(一次): Broadridge: DLR が6月に$7兆超 / J.P. Morgan: Kinexys
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