おはようございます。
今日は「Polysights」をリサーチしました。
概要|Polysightsとは?
変遷|予測市場の爆発と「インサイダー検知」というビジネス
考察|「情報の真実を加速させる」プラットフォームは続くのか
TL;DR
Polysightsは、Polymarketなどの予測市場向けのインテリジェンス&執行プラットフォームです。市場アグリゲーション、シャープなトレーダー追跡(RADAR SCORE)、そして看板機能であるInsider Finder(インサイダー検知)を提供します。
2026年6月24日、pre-seed SAFEラウンドで$1.5Mを調達したと発表しました。リード級の出資者にYZi Labs、Maven11、Varys Capitalなどが名を連ねます。Polymarket自身からも$25,000のグラントを受けており、いわば「Polymarketが後ろ盾の、Polymarket監視ツール」という珍しい立ち位置です。
背景にあるのは、予測市場の爆発的成長(PolymarketとKalshiの月間取引高は2025年9月の$5B未満から2026年4月に約$24Bへ)と、それに伴うインサイダー取引疑惑の多発です。市場が金融インフラ化する速度に「監視」が追いついておらず、その空白を埋める「市場整合性(market integrity)」が独立したビジネスになり始めた——Polysightsはその象徴です。
概要|Polysightsとは?
Polysightsは、Polymarketを中心とした予測市場のための分析・執行プラットフォームです。公式サイトは自らを「アクティブな市場を集約し、シャープなトレーダーを分析し、機関投資家グレードの執行ツールを提供する」と説明しています。
創業は2025年1月、創業者はTre Upshaw(トレ・アップショー)氏。現在のバージョンはv0.8.1で、まだ正式版(v1)前のベータ段階ですが、すでに約24,000ユーザーを抱えています。
◼️解決する課題
予測市場(特にPolymarket)が抱える、次のような課題を解決しようとしています。
インサイダー取引の検知が難しい: 結果を事前に知り得る立場の人間が、市場が動く前に大口を仕込むケースが多発。オンチェーンの取引履歴は公開されているのに、誰も体系的に監視していなかった
「スマートマネー」の追跡手段がない: 一貫して勝っているウォレットが誰なのか、どんなポジションを取っているのかを、一般トレーダーが把握する手段が乏しい
市場データが散在している: Open Interest(未決済建玉)、解決までの時間、トレンドの強さといった「クオンツ的な指標」が、Polymarketのネイティブ画面では十分に得られない
執行(execution)が機関投資家向けに最適化されていない: 大口・機関が予測市場で効率的に建玉・決済するためのプロ向け端末が存在しなかった
予測市場の取引履歴はオンチェーンで全公開されているにもかかわらず、その「公開された足跡(public trading trails)」を市場整合性のシグナルに変換する仕組みが空白だった、ここがPolysightsの出発点です。
◼️プロダクトの柱
1. Insider Finder(インサイダー検知・ベータ)
看板機能です。Polymarketをスキャンし、新規ウォレットからの異常に大きい/不自然な取引を自動でフラグ立てします。市場が動く直前の「不自然なタイミング」「突出したポジションサイズ」「新しいウォレットの大口」といった、インサイダー情報に基づく可能性のある取引を炙り出します。Upshaw氏がX上でフラグ立てして投稿した取引のうち、約85%が結果的に「勝ち」だったと報じられており、検知の精度の高さが注目を集めました。
2. RADAR SCORE(シャープトレーダーの多軸レーティング)
ウォレット(トレーダー)を多軸で評価するスコアです。単一指標ではなく、Open Interest、Resolution Urgency(解決の切迫度)、Trend Strength(トレンドの強さ)といったクオンツ・グレードの指標を組み合わせて、「どのウォレットが本当にシャープなのか」を視覚的に格付けします。第三者の比較レビューでも、競合の「単一指標アプローチ」より分析的に豊かだと評価されています。トレーダーの確定済みの利益/損失ポジションや、集計されたパフォーマンス統計まで掘り下げて見られます。
3. 市場アグリゲーション & AI分析(Discover)
アクティブな市場を横断的に集約し、30以上のカスタム指標、高度なフィルタリング、AIによる市場サマリー、リアルタイムのニュースフィードを提供します。裏側ではVertex AI、Gemini、PerplexityといったAIツールを組み合わせて、市場トレンドや取引機会を素早く見つけられるようにしています。
4. Workflows & Trade Alerts(自動化された意思決定)
「Market Insight(リアルタイムの市場メトリクス)」と「Trade Alert(買い執行時の通知)」といった自動化された意思決定チェーン(ワークフロー)を組めます。条件に応じてアラートを飛ばし、執行までを一気通貫でつなぐ発想です。
5. Terminal(機関投資家向け執行端末・ベータ)
「予測市場のための機関投資家グレードの執行」を掲げるプロ向けトレーディング端末です。現状は明確に「BETA」ラベルで、本格展開はこれからです。
◼️「Polymarketに後ろ盾されたPolymarket監視ツール」という奇妙な立ち位置
Polysightsの面白さは、監視される側のPolymarket自身が、監視ツールを支援している点にあります。Polysightsは創業初期にPolymarketから$25,000のグラントを受け取りました。
取引所にとって、サードパーティがインサイダーを可視化してくれることは「市場の健全性をアピールできる」というメリットがあり、利害が一致しているわけです。ここが、単なる「Polymarketアンチ」ではなく、エコシステムの一部としての監視レイヤーというユニークな性格を生んでいます。
変遷|予測市場の爆発と「インサイダー検知」というビジネス
◼️創業背景
きっかけは、予測市場で繰り返し起きていた「結果を知っていたとしか思えない大口」の存在でした。Polymarketの取引はオンチェーンで全公開されているのに、その異常を体系的に追う人がいなかった。Upshaw氏は、自分が作ったInsider Finderで怪しい取引をX上に投稿し続け、その的中率(約85%)が話題を呼ぶことで一気に注目を集めました。
Upshaw氏のスタンスは独特です。インサイダー取引を一方的に「悪」とは断じず、こう語っています。
「インサイダー取引は、結局のところ真実をより速く加速させるだけだ」 ——Tre Upshaw(Bloombergへのコメント / 意訳)
「予測市場は、インターネット上で最も重要な情報レイヤーの一つになりつつある」 ——Tre Upshaw(Polysights founder & CEO / 意訳)
つまり、「インサイダーがいるから予測市場はダメ」ではなく、インサイダーの動きこそが価格に真実を織り込ませる——だからこそ、それを可視化することに価値がある、という哲学です。Google社員が$2.75M規模のPolymarketインサイダー取引で起訴された件についても、Upshaw氏は「インサイダー活動が特定され訴追され得ることを示した、予測市場にとって最終的にはポジティブな瞬間だ」と評しています。
◼️創業者プロフィール
Tre Upshaw(トレ・アップショー): 創業者兼CEO。29歳、カナダ(ハリファックス)拠点。空軍の退役軍人(veteran)で、Nova Scotia Community College出身とされます。前職はmemeコイントレーダー。2025年1月にPolysightsをソロ創業しました。X(@tre_upshaw)でInsider Finderのフラグ投稿を続け、知名度を築いたタイプの「個人発・プロダクト先行」型ファウンダーです。
◼️創業からのタイムライン
2025年1月: Tre Upshaw氏がPolysightsをソロ創業
2025年〜2026年初頭: Insider FinderでPolymarketの怪しい大口をX上にフラグ立て。約85%が的中したとされ、注目を集める
(時期詳細要確認): Polymarketから$25,000のグラントを受領
2026年前半: ユーザー数が約24,000に到達。$2M規模の調達ラウンドが「最終段階」と報じられる
2026年6月24日: pre-seed SAFEラウンドで$1.5M調達をCNBCなどが報道
◼️資金調達履歴
2026年6月24日(報道日): pre-seed(SAFE) で $1.5M を調達 — 出資者: ★YZi Labs(旧Binance Labs)、Maven11、Varys Capital、Contribution Capital、Edge Ventures
◼️業界全体の変遷
なぜ今、予測市場の「監視ツール」が投資対象になるのか。背景には予測市場そのものの爆発があります。
取引高の急拡大: PolymarketとKalshiの合計月間取引高は、2025年9月の$5B未満から、2026年4月に約$24Bへ膨張。月間ユニークウォレットも半年で約3倍の84万に
地政学が主役に: 2026年初頭、Polymarketの上位市場はイラン・イスラエル・米国を巡る地政学的ベットが席巻。「米国は2/28までにイランを攻撃するか?」という単一市場が$73Mを集め、同社史上最大の地政学コントラクトに
機関マネーの流入: ICE(インターコンチネンタル取引所)がPolymarketへの$2Bコミットメントを完了し、イベント駆動データの独占配信権を獲得。KalshiはCoatue主導で$1B超を調達し評価額$22Bに
規制・整合性の論点化: 2026年3月23日、KalshiとPolymarketはインサイダー取引を抑制する新たな措置を公表。米下院のパネルも予測市場のインサイダー取引調査に動いた
要は、予測市場が「お祭り」から「金融インフラ」へと格上げされる一方、その取り締まり(policing)の仕組みが成熟する前に規模だけが先行している——この時間差の中に、Polysightsのような第三者監視ツールのビジネスチャンスが生まれた、というのが業界の見立てです。
◼️競合プレイヤー
Polymarket分析ツールはすでに群雄割拠です(月間訪問数は第三者比較レビューの推計値)。
Polymarket Analytics: 約502K訪問のドミナント・プレイヤー。洗練されたUIと「Copy Trade」紹介提携が強み。総合力で頭一つ抜けている
Hashdive: 約72K訪問。データの深さとエンゲージメントが高い(PolymarketとKalshi両対応、Smart Scoresに注力)が、デザインはやや古い
Polywhaler: 約30K訪問の「元祖」ツール。3Dグローブ・マップ表示やトレードごとのInsider%スコア、ステルス検知が特徴
PredictFolio: 約11K訪問。正確性のリファレンス的存在で、公開APIを持つ
Polysights: 約24K訪問の最も野心的な新参。RADAR SCOREによる多軸格付けとクオンツ指標、執行Terminal(ベータ)という「アナリティクス+執行」の組み合わせで差別化。ただし「pre-1.0でそれが目に見える」段階で、多くの機能が「Coming soon」「v1ベータ登録」の裏に隠れている
ダッシュボード系(Dune Analytics上のコミュニティ製ボードなど)も広義の競合ですが、それらが「データ可視化」止まりなのに対し、Polysightsは検知(Insider Finder)+格付け(RADAR SCORE)+執行(Terminal)まで一気通貫で狙っている点が違います。
考察|「情報の真実を加速させる」プラットフォームは続くのか
結論から言うと、Polysightsは「予測市場の市場整合性レイヤー」という、まだ誰も勝者がいないニッチに最速で旗を立てたプロジェクトです。プロダクトはまだv0.8.1で粗削りですが、テーマ選定とタイミングは抜群に良い。問題は、この「監視」という機能が、独立したビジネスとして食べ続けられるかです。
◼️強み
テーマとタイミングの的中: 予測市場が金融インフラ化し、インサイダー疑惑が連日メディアを賑わせる、まさにその瞬間に「検知ツール」を出した。
創業者の「実績先行」型の信頼: Insider Finderのフラグ投稿で約85%という的中率を公開の場(X)で積み上げてきたこと自体が、最良のマーケティングであり信頼の担保になっています。
Polymarketとの利害一致: 監視される取引所側からグラント($25,000)を受けている点は、対立ではなくエコシステム公認の整合性レイヤーとしての立ち位置を意味します。データアクセスや関係性の面で後発が真似しにくい優位です。
◼️弱み・リスク
プロダクトがまだ未成熟(pre-1.0): 第三者レビューでも「pre-1.0でそれが目に見える」「多くの機能がComing soon / v1ベータの裏」と指摘されています。Terminalもベータ。ユーザー24,000・調達$1.5Mという規模は、まだ「期待値先行」の域を出ていません。
ビジネスモデルの持続性: 「インサイダー検知」は注目を集めやすい一方、それ単体でいくら稼げるかは未知数です。データ販売、機関向けTerminalの手数料、サブスクなど収益化の柱が定まっていない。ドミナントなPolymarket Analyticsが「Copy Trade提携」で収益化しているのと比べ、Polysightsの収益化はこれからです。
「中立性」というジレンマ: 監視される取引所からグラントを受けている構造は、利害一致である一方で、「本当に厳しく監視できるのか」という中立性への疑問を生みかねません。市場整合性ツールの命は信頼であり、ここのバランスは諸刃の剣です。
◼️個人的な見解
個人的に面白いと思うのは、Upshaw氏の「インサイダー取引は真実を加速させるだけだ」という割り切りです。一般的な金融の常識では「インサイダー取引=排除すべき不正」ですが、予測市場という「情報を価格に変える装置」においては、インサイダーの動きこそが最も価値ある情報シグナルになる——だから排除ではなく可視化する、という発想は、予測市場の本質(information finance)を突いています。
ただ、ビジネスとして見たときの本丸は、Insider Finderの話題性ではなく、RADAR SCORE(スマートマネー追跡)とTerminal(執行)だと見ています。検知だけでは「面白いが稼ぎにくい」。一方、「誰が勝っているかを格付けし、その動きをコピーして、プロ向け端末で執行する」という流れまで作れれば、Polymarket版のBloomberg端末のような立ち位置を狙えます。
Polysightsが「一過性のバズツール」で終わるのか、予測市場の標準インフラになるのか、注目して見ていきます。
参考リンク
公式サイト: polysights.xyz
CNBC: Polymarket-backed platform boosts funding to root out insider trading on prediction markets
Gizmodo: Tracking Insider Trading on Polymarket Is Turning Into a Business of Its Own
Crypto Economy: Polymarket-Backed Polysights Boosts Funding to Target Insider Trading
OrcaLayer Research: Polymarket whale trackers compared
Polymark.et: Polysights product page
TRM Labs: How Prediction Markets Scaled to USD 21B in Monthly Volume in 2026
Decrypt: Google Engineer Charged Over $2.75 Million in Alleged Polymarket Insider Trading Bets
免責事項:リサーチした情報を精査して書いていますが、個人運営&ソースが英語部分も多いので、意訳したり、一部誤った情報がある場合があります。ご了承ください。また、記事中に Dapps、NFT、トークン、AIサービス等を紹介することがありますが、勧誘では一切ありません。全て自己責任でご判断・ご利用ください。
About us:DEBUNK(Crypto&AI)は “For learning, not for hype.” をコンセプトに、Crypto・AI 領域の注目トレンド・プロジェクト解説・最新ニュースをまとめた Agentic Web Research を毎日配信しています。
Author:mitsui (@mitsuiio) — DEBUNK(Crypto&AI)founder。Crypto・AI 領域のリサーチャーとして活動。
Contact:法人向けのリサーチコンテンツの納品や共同制作、リサーチ力を武器にした Crypto・AI コンサルティング・勉強会なども受付中です。詳しくは以下の窓口よりお気軽にお問い合わせください。
🐦 X: @debunkrsch
🌐 HP: debunkresearch.com
「AI版」のリサーチも始動しました。「Agentic Web」時代を見据えたニュースレターとなり、CryptoとAIの2つのニュースレターが走り始めます。どちらか1つだけの購読で良い方はご自身のアカウント設定から管理できます。
クリプト版はこれまで通り続きながら、AI版も同じようなフォーマットでリサーチして更新していきますのでお楽しみに!





