おはようございます。
今日は「Deel」をリサーチしました。
概要|Deelとは?
変遷|EORの雄が自社ステーブルコインに行き着くまで
考察|総合プレイヤーのクリプト給与参入は何を変えるか
TL;DR
Deel は150カ国超・40,000社超が使うグローバル人材プラットフォーム(採用・管理・支払いを統合)で、2026年6月3日に独自USDステーブルコイン「DLUSD」ウォレットを発表しました。
これまで BVNK 提携(2024年春〜)でステーブルコイン払いを裏側で提供してきた流れから、自社ステーブルコイン+rewards+スペンドカードへと一段踏み込んだのが今回のポイントです。
クリプト給与は Bitwage や Rise といった特化勢の土俵でしたが、そこへ ARR10億ドル超・評価額173億ドルの総合プレイヤーが本格参入した構図。LATAM など高インフレ地域での実需が試金石になります。
概要|Deelとは?
Deel(ディール)は、海外人材の採用・管理・支払いまでを一本化するグローバル人材プラットフォームです。ビザ・各国労働法・多通貨送金という「国境をまたいで人を雇うときの壁」をまとめて引き受けます。40,000社を超える顧客が利用し、150カ国超・150通貨以上に対応します。2025年に処理した payroll(給与計算・支払い)は約220億ドル規模に達しています。
その Deel が2026年6月3日、自社の USD ステーブルコイン「DLUSD」ウォレットを発表しました。
◼️解決する課題
海外人材を雇うたびに、現地法人の設立・各国労働法・税務・社会保険のクリアが必要で、中小企業には負担が重すぎる
国境をまたいだ給与送金は、着金が遅く、為替・送金手数料が嵩み、受取側の通貨が不安定(特に高インフレ国)
複数国・複数通貨・複数の雇用形態(正社員/業務委託)を、別々のツールで管理する煩雑さ
国際採用は従来、現地の代行業者や銀行送金を個別に組み合わせるしかなく、コストとリードタイムが大きい領域でした。とくに新興国のコントラクター(業務委託先)にとっては、せっかく受け取った報酬が自国通貨の急落で目減りするという切実な問題があります。ここに「ドル建てで速く受け取りたい」というステーブルコイン需要が生まれてきました。
◼️プロダクトの柱
Deel は単一機能のツールではなく、雇用にまつわる業務を束ねたスイートとして展開しています。
1. EOR(Employer of Record/雇用代行)とコントラクター管理
中核機能です。Deel が各国で「記録上の雇用主」となることで、顧客企業は現地法人を持たずに海外正社員を雇えます。あわせて業務委託(コントラクター)の契約・支払い管理も担い、両方をひとつのダッシュボードで扱えます。
2. Deel Payroll / HR / IT / Benefits などのスイート
給与計算(Deel Payroll)、人事管理(Deel HR)、デバイス・アカウント管理(Deel IT)、福利厚生(Deel Benefits)、採用(Deel Hire)、海外異動(Deel Mobility)まで、雇用ライフサイクル全体をカバーします。
3. 多通貨・クリプト対応の支払いインフラ
150通貨以上に対応し、公式も対応リストに「including crypto(クリプトを含む)」と明記しています。後述のとおり、ステーブルコインでの受け取りや外部ウォレットへの換金送金が可能で、ここに今回の DLUSD が乗ってきます。
◼️クリプト払いの位置づけ
Deel におけるクリプト対応は、ここ数年で段階的に深まってきました。2026年6月時点で確認できる主な経路は次のとおりです。
コントラクターの withdraw(出金): Deel Balance(プラットフォーム内残高)から、第三者プロバイダ経由でステーブルコイン等に換金し、外部ウォレットへ送金できます。対応資産は BTC・ETH・USDC・USDT・Solana・Dash・BUSD などです。
給与の一部をステーブルコインで受取: USDC・EURC・USDT で受け取るオプションが用意されています。
DLUSD(今回の新規): プラットフォーム内で USD と1:1連動し、いつでも USD へ償還できる自社ステーブルコイン。
要は、これまで「換金して外に出す」「一部をステーブルコインで受け取る」だったところに、Deel 自身が発行に踏み込んだ通貨が加わった、という構図です。
◼️深掘り:DLUSDウォレットは何がすごいのか
今回の主役である DLUSD を、もう一段詳しく見ていきます。
DLUSD は、プラットフォーム内で USD と1:1で連動し、いつでも USD 価値へ償還できる「USD建てのデジタル残高」です。
注目は、ただ持つだけでなくリワード(報酬)が乗る点です。ワンタップで「Earn」にオプトインすると、残高に リワードが付きます。ただし Deel はこれを「変動し、保証されない、あくまでプロモーション的なインセンティブであって、利回り・利息・投資リターンではない」と慎重に位置づけています。
さらに年内には Deel Card(スペンドカード)の投入が予定されており、DLUSD 残高をそのまま世界中で使えるようにする計画です。展開順はラテンアメリカ起点で、アルゼンチンでの早期アクセスから始まり、数週間でLATAM(中南米)の他国、その後 APAC(アジア太平洋)・MENA(中東北アフリカ)・アフリカへと広げる方針。自国通貨が不安定な新興国から攻めるあたりに、実需を取りにいく戦略が透けて見えます。
技術的な裏側については、Stripe がウォレットを構築し、Tempoブロックチェーン上で動き、Morpho を経由したオンチェーンボルトで最大4%程度の利回りが乗る、とされています。
変遷|EORの雄が自社ステーブルコインに行き着くまで
◼️創業背景
Deel の出発点は、創業者たちの個人的な原体験にあります。MIT 在学中の友人たちが、ビザや各国の労働法の壁にぶつかり、せっかくのオファーがあっても高給の職に就けない——その現実を目の当たりにしたことが着想につながりました。「優秀な人材が、生まれた国や在留資格のせいで働けないのはおかしい」という課題認識が、国境をまたいだ雇用インフラを作る原動力になっています。
◼️創業者プロフィール
2013年に MIT で出会い、2014年に卒業した同窓のメンバーが中心です。
Alex Bouaziz(アレックス・ブアジズ): Co-Founder & CEO。MIT で土木環境工学を専攻。
Shuo Wang(シュオ・ワン): Co-Founder & CRO。MIT で機械工学を専攻。前職はクリーンテック企業 Aeris Cleantec の共同創業者。
Ofer Simon(オフェル・サイモン): Co-Founder。
◼️創業からのタイムライン
2019年: 創業。Y Combinator に参加。
2020年: ARR 約400万ドル。Series A・B を実施。
2021年: ARR 約5,400万ドル。Series C でユニコーン(評価額10億ドル超)入り、続けて Series D。
2022年: ARR 約1億ドル。評価額120億ドルでのセカンダリー取引。
2023〜2024年: ARR は5億ドル規模へ拡大。
2024年春: BVNK と提携し、ステーブルコインでの payout(支払い)を開始。
2025年2月: ランレート(年換算売上ペース)8億ドル。
2025年6月: ランレート10億ドル超。
2025年10月: Series E(3億ドル、評価額173億ドル)。
2025年11月: 元 Intuit CFO を招聘(IPO観測が強まる)。
2026年6月3日: DLUSD を発表。
◼️資金調達履歴
2020年5月: Series A 1,400万ドル — リード: ★a16z
2020年9月: Series B 4,800万ドル — リード: ★Spark Capital
2021年4月: Series C 1億5,600万ドル(評価額12.5億ドル)
2021年10月: Series D 4億2,500万ドル(評価額55億ドル)— リード: ★Coatue・DST Global
2022年5月: セカンダリー 5,000万ドル(評価額120億ドル)
2025年10月: Series E 3億ドル(評価額173億ドル)— 共同リード: ★Ribbit Capital・a16z
累計調達額は6億ドル超。Series E 時点で ARR は10億ドルを超え、3年連続で黒字という収益体質も明らかにされています。成長は買収でも加速させており、Zeitgold・PayGroup・PaySpace・Hofy・Atlantic Money、そして Safeguard Global の payroll 部門など、これまでに13件の買収を重ねてきました。
◼️業界全体の変遷
リモートワークの一般化で「どこの国の人でも雇いたい」という需要が一気に高まり、EOR/グローバル payroll は急成長領域になりました。Deel はその波の代表格です。一方で、支払いの「最後の1マイル」であり、とくに高インフレ国のワーカーが報酬を安定的に受け取る手段は長く未解決でした。ここにステーブルコインがフィットします。
Deel はまず2024年春に BVNK と組み、この最後の1マイルを外部プロバイダ経由で埋めました。BVNK のケーススタディによれば、Deel が法定通貨で口座をファンドし、BVNK がステーブルコインへ換金してワーカーのウォレットへ届ける仕組みで、開始から9カ月で125,000件のペイアウト、100カ国超・10,000名のコントラクターがこの方法を選択。2025年にはクリプトペイアウトで2億5,000万ドルを処理し、2026年にはフルタイム従業員のステーブルコイン給与へ拡張する計画とされています。
そして今回の DLUSD で、Deel はこの最後の1マイルを「自前」で握りにいきます。
◼️そして自社ステーブルコインへ
こうした流れの到達点として、Deel は2026年6月3日、自社ステーブルコイン DLUSD の発表に至りました。外部プロバイダ依存から一歩進み、自社ブランドのドル残高を軸に据えるという、ここまでの年表の締めくくりにあたる一手です。
◼️競合プレイヤー
クリプト給与まわりは、大きく「総合HRプレイヤー」と「クリプト特化勢」に分かれます。
Remote: 統一 payroll エンジンを持つグローバルHR。コントラクター向けに USDC 等ステーブルコインでの payout にも対応。EOR は月599ドル帯。Deel の最大の直接競合です。
Rippling: 米国中心の HR+IT 統合プラットフォーム。デバイス管理など IT 寄りの強みを持ちます。
Papaya Global: 現地パートナー網をオーケストレーションするモデル。EOR は月499ドル帯。
Bitwage: 2014年創業、クリプト給与の草分け。2025年11月に Paystand が買収。
Rise: 190カ国超に対応し、ステーブルコイン payout がデフォルト。デビットカードや IBAN 発行も手がける特化勢。
BVNK: Deel の裏側でステーブルコイン換金を担ってきたプロバイダ。提携相手でありインフラ供給者です。
Deel: 「総合 HR・雇用インフラ+クリプト payout/自社ステーブルコイン」という立ち位置。特化勢の土俵に、規模で勝る総合プレイヤーが踏み込んだ形です。
考察|総合プレイヤーのクリプト給与参入は何を変えるか
結論から言うと、DLUSD の発表は「クリプト給与がニッチから主流インフラへ移る」流れを象徴する一手だと見ています。特化スタートアップが切り拓いた市場に、すでに40,000社の顧客基盤を持つ Deel が自社通貨で乗り込むからです。
◼️強み
既存の巨大な配給チャネル: 150カ国・40,000社という顧客基盤の上に DLUSD を載せられます。ゼロから利用者を集める特化勢と違い、すでに給与が流れているパイプにステーブルコインを差し込める強さは圧倒的です。
「雇用まるごと」のロックイン: EOR・payroll・HR・IT・福利厚生まで束ねているので、支払いだけ他社に乗り換える動機が生まれにくい。DLUSD は単体プロダクトではなくスイートの一部として効きます。
収益体質と資金力: ARR10億ドル超・3年連続黒字・評価額173億ドルという土台があり、規制対応や各国ライセンス取得という重い投資に耐えられます。クリプト給与は「コンプライアンス勝負」になりやすい領域なので、この体力は効きます。
◼️弱み・リスク
規制・発行体の不透明さ: ステーブルコイン規制が各国で固まりつつある中、誰がどの裏付けで発行しているのかが見えにくいのは、企業顧客にとって懸念点になりえます。
特化勢・規制当局との競合圧力: Rise や(Paystand 傘下の)Bitwage は特化ゆえの機動力があり、Remote も同じ総合路線で追ってきます。総合プレイヤーは動きが重くなりがちで、各国規制との折り合いで展開スピードが鈍る可能性もあります。
◼️個人的な見解
僕が一番注目しているのは、展開順がラテンアメリカ(アルゼンチンの早期アクセス)から始まっている点です。これは「クリプト好きだから」ではなく、自国通貨が不安定でドル建て報酬の実需が強い地域を狙う、極めて合理的な選択です。つまり DLUSD は投機やハイプの文脈ではなく、給与という最も生活に近いユースケースで配られる、ここに本気度が表れていると思います。
クリプト給与が「特化勢の遊び場」から「雇用インフラの標準オプション」に変わる転換点として、今後も追いかけていきます。
参考リンク
公式サイト: deel.com
会社概要: deel.com/about
DLUSD 発表(公式ブログ): Introducing the Deel Stablecoin Wallet
Series E・評価額(公式ブログ): New investment & valuation
クリプト withdraw/対応資産(ヘルプ): help.letsdeel.com
BVNK 提携ケーススタディ: Deel teams up with BVNK
技術スタック(報道・Stripe): Deel and Stripe
資金調達(報道・TechCrunch, 2025/10/16): TechCrunch
競合(Remote): remote.com/blog
競合(Bitwage): bitwage.com/blog
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