おはようございます。 今日は「Decart」をリサーチしました。
概要|Decart とは?
変遷|Unit 8200 発、seed $21M から報道ベース約 $4B への軌跡
考察|”速さ” の正体はモデルではなくハード横断の最適化にある
TL;DR
Decart は「リアルタイム world model(世界モデル)+推論最適化」を軸にする AI インフラ企業で、2023 年後半の創業・従業員は約 50〜60 名。seed $21M から始まり、直近は Radical Ventures がリードし NVIDIA も参加した $300M ラウンドで、報道ベースの評価額は約 $4B(会社は非開示)に達したとされています。
重要なのは「速さ」の方向性です。Sora や Runway が数秒の動画を数十秒かけてオフラインで「生成」するのに対し、Decart は 30FPS・遅延 100ms 級で既存映像を「その場で書き換える」ライブ・双方向を差別化軸に据えています。
ただし性能数値(推論 1,600 tokens/秒、100x 効率など)はすべて自社開示ベースで第三者検証がなく、評価額も報道推定です。競合が本格追随したときに、この “ライブ” という一点突破がどこまで堀になるかが見どころです。
概要|Decart とは?
Decart は、リアルタイムに動作する world model(世界モデル、後述)と、それを高速で回すための推論最適化スタックを二枚看板にする AI 企業です。
自らを “The Live AI Lab the World Runs On” と称し、本社をサンフランシスコ、開発拠点をイスラエル・テルアビブに置いています。2023 年後半の創業で、従業員は報道ベースで約 50〜60 名とされる比較的小さな組織です。
今回取り上げるのは、直近 2 年で seed $21M から報道ベースで約 $4B の評価額まで駆け上がり、NVIDIA が出資し AWS Trainium3 上での学習まで進めているからです。生成 AI の動画分野は Sora や Runway が主役に見えますが、Decart は少し違う土俵で勝負しています。
◼️解決する課題
既存の動画生成 AI は「数秒の映像を数十秒〜数分かけて作る」オフライン処理が中心で、ライブ配信やゲームのような双方向・低遅延の用途には使えない
ゲームや物理シミュレーションの世界は、これまで人手で作り込むゲームエンジンや物理シミュレータに依存しており、環境そのものを AI で生成する発想が乏しかった
大規模な生成モデルを回すと GPU コストが跳ね上がり、リアルタイム用途では採算が合わない
従来の動画生成は「作品を一本仕上げる」発想でした。Decart はここを「映像という信号を、来たそばから別のものへ変換し続ける」ライブ処理として捉え直しています。この発想の違いが、後述する Mirage や Lucy に直結します。
◼️プロダクトの柱
公式サイトが掲げる現行プロダクトは 3 本柱です。
1. Lucy 2.5(リアルタイム動画変換モデル)
ライブ映像を 30FPS でその場編集できるモデルです。バーチャル試着(virtual try-on)、ライブ広告、ゲーム映像の書き換えなどを想定しています。応答は 30ms 未満、学習は AWS Trainium3 上で MFU(モデル FLOPs 利用率)80% 超を主張していますが、いずれも自社開示ベースの数値です。
2. Oasis 3(インタラクティブ world model)
ロボット・自動運転・製造・ドローンといった physical AI(物理 AI)向けに、操作に応じて反応する仮想環境そのものを生成する world model です。後述する初代 Oasis の系譜を、実世界の制御学習用途へ広げたものと理解すると分かりやすいです。
3. DOS(Decart Optimization Stack)
NVIDIA・AWS Trainium・Google TPU といった異なるハードを横断して学習・推論を最適化する層です。Decart は DOS が “100x の効率” を実現し、エージェント推論で 1,600 tokens/秒(業界平均は約 200 とする)、フル HD 動画を最大 100FPS で処理できると主張しています。ここも全て自社開示ベースで、第三者ベンチマークは公表されていません。
◼️”モデルではなくスタックで速い” という設計思想
面白いのは、Decart の速さの核が「賢いモデル」ではなく「ハード横断の最適化スタック(DOS)」に置かれている点です。多くの生成 AI 企業がモデルの巨大化で競う中、Decart は同じモデルをいかに安く・速く回すかに投資しています。リアルタイム用途では 1 フレームあたりの遅延とコストが直接ユーザー体験を左右するため、この選択は理にかなっています。
変遷|Unit 8200 発、seed $21M から報道ベース約 $4B への軌跡
Decart の面白さは、プロダクトそのものより「一貫してリアルタイムに賭け続けてきた」流れにあります。ここを厚めに追います。
◼️創業背景
共同創業者の 2 人は、イスラエル軍 Unit 8200 での予備役時代に出会い、意気投合したとされています。知識検索(Google)、EC(Amazon)、コミュニケーション(SNS)には巨大な消費者アプリが育った一方で、エンタメ・創造の領域はリアルタイム性が足りず手薄なまま、という課題意識が出発点です。ここを「リアルタイム生成 AI」で攻めるというのが、創業以来ぶれない一本の線になっています。
◼️創業者プロフィール
Dean Leitersdorf(CEO): テクニオン(イスラエル工科大学)で若くして CS の博士号を取得したとされ、分散アルゴリズムやスパース計算を専門とします。イスラエル軍情報部隊 Unit 8200 の出身です。
Moshe Shalev(CPO): 同じく Unit 8200 の出身です。
なお、報道では氏名非開示の第 3 の共同創業者が存在するとされていますが、詳細は公表されていません。
◼️創業からのタイムライン
2023 年後半: Decart 創業
2024 年 10 月 31 日: 初代 Oasis 公開。Minecraft のプレイ動画で学習し、キーボード/マウス入力を受けてゲーム画面をリアルタイム生成する「エンジンレスのプレイ可能な AI 世界」。500M パラメータ・約 20FPSで、重み・コード・デモを公開しました。AI チップ企業 Etched との共同発表です(TechCrunch)
2024 年 12 月 19 日: Series A を発表(後述)
2025 年 7 月: Mirage 公開。「世界初のリアルタイム video-to-video(映像から映像への変換)」を掲げ、ライブ/録画映像をテキストプロンプトで即座に別スタイルへ変換。当初は 20FPS・768×432・遅延はフレームあたり約 100ms でした
2025 年 8 月 7 日: Series B を発表(後述)
2026 年 5 月 18 日: Radical Ventures がリードする大型ラウンドを発表(後述)
Oasis(プレイ可能な世界)→ Mirage(映像のライブ変換)→ Lucy(30FPS のプロダクト化)と、やっていることは一貫して「リアルタイムに世界や映像を生成・書き換える」ことです。
◼️資金調達履歴
seed: $21M。バリュエーションは約 $100M 超。投資家は Sequoia と Zeev Ventures(Oren Zeev)(TechCrunch)
2024 年 12 月 19 日/Series A: $32M、ポストマネー $500M 超。リードは Benchmark、Sequoia・Zeev も参加
2025 年 8 月 7 日/Series B: $100M、バリュエーション $3.1B。リードは Sequoia、既存の Benchmark/Zeev に加え新規 Aleph VC が参加しました。この時点で「過去 11 か月で調達した $153M のうち $10M 未満しか使っていない」と資本効率を強調しています(Fortune)
2026 年 5 月 18 日/大型ラウンド: $300M、リードは Radical Ventures、NVIDIA も参加。Adobe・Toyota・eBay Ventures 等も名を連ねます。学習は AWS Trainium3 上で進めています。評価額は会社非開示ですが、報道ベースで約 $4B とされます(SiliconANGLE、Calcalist)。累計調達額は $450M 超です(The Next Web)
わずか 2 年弱で seed $100M 級から報道ベース $4B へ、というスピードです。しかも「調達額の大半を使わずに回している」と資本効率を強調している点は、DOS によるコスト最適化という自社の看板と物語がつながっています。
◼️利用実績
初代 Oasis は公開直後に急拡大したと報じられています(一部報道では「3 日で 100 万ユーザー」、別の表現では「数百万プレイヤー」と粒度に差があります)。また 2024 年 11 月にローンチした GPU 最適化事業では、数百万ドルの売上と黒字化を達成したと主張していますが、こちらは要確認の情報です。
◼️業界全体の変遷
生成 AI の動画分野は、この 2 年で一気に主役級になりました。ただし主流はあくまで「オフラインで数秒〜数十秒の映像を作る」方向です。Decart はここに背を向け、「映像をライブで書き換え続ける」低遅延・双方向という別ルートを掘っています。同時に、world model はゲームエンジンや物理シミュレータを “学習済みモデル” で置き換える動きとして、physical AI 文脈でも注目が集まっています。Decart が Oasis 3 で physical AI へ越境しているのは、この潮流に乗る布石とみられます。
◼️競合プレイヤー
Runway / Pika / Luma / Google Veo / OpenAI Sora: 高品質な動画生成の主役級。ただし基本はオフラインで数秒〜数十秒の生成が中心とされ、ライブ・双方向の低遅延用途は主戦場ではありません
Google Genie 系 / World Labs: プレイ可能な world model の文脈で、Decart の Oasis 系と近接する存在とされます
Decart: 「ライブ・双方向・低遅延(30FPS/遅延 100ms 級)」を一貫した差別化軸に置き、モデルの巨大さではなく DOS によるハード横断の最適化で速さとコストを取りにいく立ち位置です
考察|”速さ” の正体はモデルではなくハード横断の最適化にある
Decart を読み解く鍵は、「賢さ」ではなく「速さと安さ」に賭けている点だと考えています。動画生成でモデルの品質を競うプレイヤーは多いですが、Decart は同じ生成を “ライブで・安く回す” インフラ側から攻めています。ここが評価の分かれ目です。
◼️強み
一貫したリアルタイム戦略: Oasis → Mirage → Lucy と、看板プロダクトがすべて「リアルタイムに世界/映像を生成・書き換える」で筋が通っており、ビジョンとプロダクトがぶれていません。
ハード横断の最適化スタック(DOS): NVIDIA・Trainium・TPU をまたいで最適化する層を自前で持つことは、GPU 争奪戦の時代に効いてきます。資本効率を強調できるのもここが効いているとみられます。
強力な資本・提携ネットワーク: Sequoia・Benchmark・Radical Ventures に加え、NVIDIA・Adobe・Toyota まで出資に巻き込み、学習では AWS Trainium3 を使う布陣は、インフラとして採用される足場になります。
◼️弱み・リスク
性能数値がすべて自社主張: 「1,600 tokens/秒」「100x 効率」「フル HD 100FPS」「応答 30ms 未満」などは自社開示ベースで、第三者ベンチマークが公表されていません。ここは割り引いて読む必要があります。
評価額とユーザー数の不確かさ: 約 $4B は報道推定(会社非開示)で、初代 Oasis のユーザー数も出典によって粒度が違います。物語の勢いに対して、検証可能な数字は意外と限られます。
競争激化: リアルタイム動画変換は差別化軸ですが、Runway や Sora 陣営が本格的に低遅延・双方向へ寄せてきたとき、”ライブ” という一点突破がどこまで堀になるかは未知数です。
◼️個人的な見解
私が注目しているのは、Decart が「モデルではなくスタックで速い」と言い切っているところです。動画生成の勝負が品質からコスト・遅延へ移るなら、DOS のような最適化層こそが本当の資産になり得ます。逆に言えば、Decart の主張の多くがこの最適化スタックの性能に乗っかっているので、第三者検証が出てこない限り、投資家や採用企業は「自社開示ベース」という但し書きを外せません。
ウォッチポイントは 2 つです。ひとつは、DOS の性能について外部ベンチや採用事例が公開されるかどうか。もうひとつは、Oasis 3 が physical AI(ロボ・自動運転)の学習環境として実際に使われ始めるかどうか。この 2 つが動き出したら、Decart は “話題先行” から “インフラ” へ一段上がります。まずはここを静かに見ておきたいところです。
参考リンク
公式サイト: decart.ai
TechCrunch: Decart adds another $32M at a $500M valuation
TechCrunch: Decart’s AI simulates a real-time playable version of Minecraft
PetaPixel: Mirage is the world’s first AI video that can transform live footage in real time
Fortune: Decart raises $100 million at a $3.1 billion valuation
The Next Web: Decart $300 million, Radical Ventures, world models
SiliconANGLE: Decart raises $300M for AI optimization software and world models
Calcalist(CTech): Decart $300M ラウンド・評価額約$4B 報道
Calcalist: 創業者インタビュー
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