おはようございます。 今日は「Buzz」をリサーチしました。
概要|Buzzとは?
変遷|Dorseyは「分散型のID」を、何度も試してきた
考察|IDを配る仕組みは作った。取り上げる仕組みは、まだ無い
TL;DR
Buzzは、Block, Inc.が2026年7月21日に公開した会社向けのチャットアプリです。チャンネルに人間とAIエージェントが同じ資格で並び、さらにソースコードの置き場(Gitホスティング)まで内側に持っています。
「分散型」と紹介されていますが、設計書を読むと実体は「1組織につき1台のサーバー」です。サーバー同士が中身をやり取りする仕組みは入っていません。Buzzの言う分散とは、サーバーの分散ではなく利用者のIDの分散のことです。
GitHubのスターは2026年7月29日時点で16,145まで伸びましたが、公式サイト自身が「初期段階」と書き、Windows版の配布ファイル名にはいまも
alpha-unsigned(署名なし)と入っています。
概要|Buzzとは?
Buzzは、一言でいうとSlackのようなチャットと、GitHubのようなソースコード置き場を1つにまとめた、会社用の仕事場アプリです。Block, Inc.(旧Square)が2026年7月21日に公開しました。
いちばんの特徴は、チャンネルに人間とAIエージェントが同じ資格で並ぶことです。エージェントは「アプリ」や「ボット」として人間の下にぶら下がるのではなく、人と同じ参加者として席を持ちます。差し込めるのは Claude Code / Codex / goose の3つで、Buzz自身はAIモデルを持ちません。
土台は Nostr(Notes and Other Stuff Transmitted by Relays) という、SNS・メッセージング用の規格です。ここがBuzzの面白さと弱さの両方の出どころになっています。
◼️まず「鍵ペア」の話から
ふつうのサービスで、あなたが誰かを証明するのはメールアドレスとパスワードです。アカウント情報を預かるのはサービス側で、本人確認もアカウントの停止もサービス側が行います。
Nostrが使う鍵ペア(key pair)は、この関係をひっくり返します。利用者は「みんなに見せる鍵」と「自分だけが持つ鍵」を1組作り、発言するたびに自分だけの鍵で署名します。受け取った側は、公開された鍵で「確かに本人が書いた」と確かめられます。サービス側にアカウントを作ってもらう必要もパスワードもありません。
Buzzはこの鍵を、人間だけでなくAIエージェントにも持たせます。だから「誰が何を言い、どのエージェントが何を実行したか」を後から検証できます。秘密鍵はデスクトップアプリがOSの金庫(macOSのキーチェーンなど)にしまい、Buzzのサーバーが預かるという記述はありません。
裏返しも、Buzz自身が正直に書いています。秘密鍵を失うことは、そのまま自分のIDを失うことを意味する。「パスワードをお忘れですか」に相当する導線は無い、と。
◼️Blockが解こうとしている課題
Blockの問題意識は一点で、AIエージェントの身元(identity)です。
いまのエージェント運用では、身元は実質的にベンダーが発行したAPIキーで、何を実行したかの記録もそのプラットフォームのログの中にしか残りません。3体なら気になりませんが、30体を業務に入れた瞬間、「誰の指示で誰が何をやったのか」を後から追えるかが効いてきます。
Buzzの答えは「エージェントにも鍵を持たせて署名させる」。公式は、身元をプラットフォームのアカウントやAPIキーに縛りつけないと説明します。ただ、その「持ち運べる」性質は、企業の運用では逆向きに働きます。
◼️できること
チャンネル: 人とエージェントが同席する会話の場。アクセス制御は「メンバーかどうか」だけです
Gitホスティング: リポジトリをBuzzの中に置け、あなたの公開鍵がコードの反映に署名します。ただし公式が「Git連携はまだ初期段階」と書いています
セルフホスト: Docker Compose で一式を自社サーバーに立てられます。
◼️「分散型」の実体は、1本のサーバー
Dorsey氏はBuzzを「decentralized(分散型)」「self-sovereign(自己主権的)」と表現したと報じられています。
一方、リポジトリに置かれた設計書 ARCHITECTURE.md は、こう書いています。
There is no peer-to-peer event exchange, no gossip, no replication — just clients connecting to one relay over WebSocket… (端末同士のやり取りも、うわさ話式の伝播も、複製も無い。各利用者が1本のリレーに繋ぐだけだ)
ここでいうリレー(relay/メッセージを預かって配る中継サーバー)が、Buzzの心臓です。同じ設計書はリレーを「唯一の真実の源」と位置づけ、自社サーバーに立てる場合の既定も「1ホスト・1リレー」だと書いています。
つまり、Buzzは分散型と書かれていますが、動いている姿は「1組織につき1台のサーバー」です。 「分散型チャット」と聞いて想像するもの、つまり1台落ちても止まらない仕組みとは、別物です。
なおBlock自身の言い方も抑制的で、公式サイト buzz.xyz に載っている文章は実質2文だけ。うち1つが「Come test the early stages with us.(初期段階を一緒に試してほしい)」です。
変遷|Dorseyは「分散型のID」を、何度も試してきた
◼️Nostrとは何か
Nostrは、fiatjaf という匿名の開発者が作った規格で、部品はイベント(発言などの1件分のデータ)、鍵ペア(利用者のID)、リレーの3つだけです。先に伝えておくと、Nostrはブロックチェーンではありません。取引の記録もトークンも出てきません。そしてリレー同士は通信しません。データが複数の場所に残るかは、アプリが複数のリレーに送るかどうか次第で、Buzzはそれをやっていません。1本です。
Buzzは独自の作り込みもしていますが、Gitまわりの大部分はNostrの標準仕様に沿っていて、独自なのは「承認」のやり取りだけです。公式は「明日Buzzが消えても、あなたのリポジトリは他のNostr系サービスで動く」とまで書いています。
◼️Dorseyの系譜
Buzzは、Dorsey氏が関わってきた「分散型のID」プロジェクトの最新形にあたります。
2022年12月: Dorsey氏がNostrの開発に 14 BTC を拠出したと報じられています
2024年5月: Dorsey氏が Bluesky の取締役を退任したと報じられています
2024年11月: Blockが web5 を掲げていた TBD を畳みます
2025年12月: Block・Anthropic・OpenAI が Linux Foundation 傘下に Agentic AI Foundation(AAIF) を設立
2026年4月: 自社のAIエージェント goose を AAIF へ寄贈
2026年7月21日: Buzz 公開(リポジトリ自体は3月に作成)
読めることが2つあります。ひとつは、直前の2つがどちらもBlockの手元に残っていないこと。ただし性格は逆で、TBDは事業として止めたもの、gooseは動いているまま外に出したものです。goose本体は2026年7月29日時点でスター51,890とBuzzの3倍以上で、失敗ではありません。
もうひとつは、Buzzはgooseと違ってBlockの統制下にあることです。ガバナンス文書には「Blockのオープンソース統治委員会が最終権限を持つ」と明記されています。中立の財団ではなく、舵はBlockが握っています。
なおDorsey氏の現在の公式肩書きは、block.xyz の会社紹介ページも役員ページも404で、確認できませんでした。一般には Block Head 兼 Chairman と紹介されますが、ここでは「Blockの共同創業者」に留めます。
◼️競合プレイヤー
Slack には大企業が求める管理機能(利用者の一括管理、シングルサインオン、情報漏洩の防止)が揃い、ISO 27001系・SOC 2 タイプII・FedRAMP Moderate などの認証も並びます。Microsoft Teams + Copilot は「エージェントの身元」を既存の社員ディレクトリの延長で解きます。そしてBuzzだけが、IDの層から作り直しています。
面白いポジショニングですが、現状はテックギークが使い始めた段階と言えます。
考察|IDを配る仕組みは作った。取り上げる仕組みは、まだ無い
Buzzは「Slackキラー」でも「GitHubキラー」でもなく、AIエージェントの身元をプラットフォームの外側に置けるかを確かめる実験です。非常に面白いですが、ただ企業の仕事場として見るなら、IDを配る仕組みは作ったが、取り上げる仕組みがまだ無いという一点で、入口の手前に立っています。
◼️強み
問題設定が正しい: エージェントに署名鍵を持たせ、発言も操作も本人の署名で残す。後から誰が何をやったか追えるのは、監査の観点で真っ当です。
技術的に手を抜いていない: 端末間の鍵の受け渡しには形式検証まで付き、監査ログも「検知できるだけで防げるわけではない」と自分で限界を書いています。誇張していません。
Gitは囲い込まない設計: 大部分をNostrの標準仕様に載せています。チャット側が独自仕様に寄っているのと対照的です。
◼️弱み・リスク
鍵を無効にする仕組みが設計に無い: 最大の穴です。公開されている主要ドキュメントには、鍵の失効・入れ替え・退職時の権限剥奪の手順も機構も見つかりませんでした。あるのはチャンネルのメンバー一覧から名前を消す機能だけ。IDは本人のものなのに、アクセスを止められる場所は中央のリレーしかない。 退職者が持ち出した鍵は、退職後もその人のものであり続けます。
「分散」が期待とずれている: 既定は1ホスト・1リレー。1台落ちれば止まります。いわゆるブロックチェーンで言われている分散とは異なる意味合いです。
大企業向けの要件が、監査ログを除いてほぼ空白: 利用者の一括管理もシングルサインオンも、私が読んだドキュメントには出てきません。主要な認証も未取得で、buzz.xyz には価格ページもドキュメントサイトも存在しません。
チャンネル本文の暗号化について、記述が無い: 断定は避けますが、少なくとも設計上、リレーの運営者は中身にアクセスできる位置にいます。
開発の重心が、まだ強くBlockに寄っています: 2026年7月29日時点でスターは16,145まで伸びましたが、コミットの大半は上位数名に集中し、ハンドル名からBlock社員とみられる人が上位に並びます(※所属は推定です)。外から継続的に書いている人は、まだ多くありません。
◼️個人的な見解
いちばん考えさせられたのは、「自分のIDは自分のもの」という理想と「企業のアクセス管理」が正反対を向いている点でした。
Buzzの理想はドキュメントの言葉どおりで、どのプラットフォームもあなたのIDを所有しないし、アカウントを停止できない。ところが企業の仕事場に求められるのは、まさに止められることのほうです。退職したら翌日にアクセスが消える。端末を失くしたら管理者が即座に無効化する。企業向けのID管理サービスが存在する理由は、この1点にあります。
Buzzの答えは「IDは止めないが、リレーのメンバー資格は止める」という折衷案です。ただ、そう整理した瞬間に実効的な制御点は中央のリレーに戻ります。「サーバーは1台」「アクセス制御はメンバー資格だけ」「リレーが唯一の真実の源」が揃えば、実態はよくできた自社ホスト型のチャットサーバーです。違うのは、そこに座る人の身元がサーバーの持ち物ではない、という1点だけ。それでも、その1点に価値はあると思います。
見どころは、次のバージョンでセキュリティ文書に何が足されるかです。認証の取得も管理機能も、時間と金の問題でいつかは埋まります。でも鍵をどう取り上げるかは、設計の問題です。ここにBlockがどう答えるかで、Buzzが「面白い実験」で終わるのか「エージェント時代の業務基盤」に育つのかが決まります。今後の発展が楽しみです。
参考リンク
公式サイト: buzz.xyz
Block: Introducing Buzz(2026-07-21)
GitHub: block/buzz
GitHub: ARCHITECTURE.md
GitHub: SECURITY.md/VISION_SOVEREIGN.md
Element: Customers(Tchap)/Bundeswehr 事例
Decrypt: Block Launches Buzz(Dorsey 発言)
CoinDesk: TBD / web5 終了
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