おはようございます。
先週1週間(6/13〜19)のAI市場の振り返りです。
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Fable 5 / Mythos 5 輸出規制、停止から1週間 — 「米国がAIを止められる」恐怖が現実になった
前号で速報したAnthropicのFable 5 / Mythos 5への米商務省輸出規制指令(6/12発出、6/13全世界停止)は、今週を通じて停止状態が継続しています。公開からわずか3日で世界中のユーザーがアクセスを失った、AIモデルの「リコール」が現実になりました。
背景が徐々に明らかになっています。発端はAnthropicへの投資家であるSK Telecomと中国との関係が指摘されたこと。Amazon研究者がFable 5の脆弱性を別途報告し、David Sacks(PCAST共同議長)がDario Amodei CEOに「ジェイルブレイクを修正するか自主停止か」の二択を迫りましたが、Amodeiは両方を拒否。結果、全面的な輸出管理指令に至りました。
6/17〜18にAnthropicがソウルオフィスを開設し、国際担当MDのChris Ciauriが「数日中にモデルは復帰する」と発言。Amodeiはトランプ政権と直接会談しましたが合意には至っていません。6/19にはNAVER・Samsung SDS・LG CNSなど韓国大手6社がClaude導入を発表しており、規制の渦中でもビジネス展開を止めていません。
一方で、サイバーセキュリティリーダー300人超が freefable.org で公開書簡に署名し解除を要求。「安全保障のためにAIを制限することが、かえってセキュリティの脆弱性を生む」という論理です。
そしてこの事態を横目に、中国勢のオープンウェイトモデルが急速にポジションを埋めています(Pickup News⑤で詳述)。
G7エヴィアンサミット — カナダPM「2008年の金融危機的瞬間」、ソブリンAIが一気に加速
6/15〜17、フランス・エヴィアン=レ=バンで開催された第52回G7サミットで、AIが最大の議題の一つとして浮上しました。Sam Altman(OpenAI)、Dario Amodei(Anthropic)、Demis Hassabis(Google DeepMind)がワーキングランチに参加し、3大ラボのトップが揃い踏みしました。
最も衝撃的だったのは、カナダ首相がFable 5の輸出規制停止を「2008年の金融危機的瞬間」と表現したことです。「米国企業のAPIを使っている限り、米国政府の一声でAIインフラが止まる」というリスクが、先進国首脳レベルで初めて公式に議論されました。
具体的なアクションとして、EUが技術主権パッケージを提案し、カナダが$2.3B規模の「AI for All」戦略を発表。AI依存のシステミックリスクへの警鐘が、個別の政策発表につながる流れができています。
サミットでは未成年者保護に関する自主的コミットメントが合意され、「AIの安全かつ迅速な導入」に関する宣言が採択されました。SoftBank孫正義氏のフランス€750億AIデータセンター投資(5/31 Choose France発表)もG7の文脈で再び取り上げられています。
SalesforceがFinを$3.6Bで買収 — AIカスタマーサービス史上最大のM&A
6/15に発表。SalesforceがAIカスタマーサービス企業Finを$3.6B(約36億ドル)で買収しました。AIエージェント関連のM&Aとしては過去最大規模です。
Finは元々Intercom出身のチームがスピンオフで立ち上げた企業で、AIを活用したカスタマーサポートの自動化に特化しています。SalesforceのService CloudやAgentforceとの統合が見込まれます。
SalesforceのMarc BenioffはAI関連で積極的な買収を続けており、「AIネイティブの顧客対応」を自社プラットフォームの中核に据える意図が明確です。
この規模の買収は、AIエージェントが「実験的なツール」から「エンタープライズの中核インフラ」へ移行したことの証左です。前号でのOpenAI × Ona($2.8B)に続き、AI人材とプロダクトの獲得競争が加速しています。
Noam Shazeer、GoogleからOpenAIへ移籍 — 「Attention Is All You Need」共著者の決断
6/17報道。Transformer論文「Attention Is All You Need」(2017年)の共著者であるNoam Shazeerが、GoogleからOpenAIへ移籍しました。ShazeerはGoogleに復帰してからGemini開発を率いてきた人物で、AI業界で最も影響力のある研究者の一人です。
Shazeerは2023年にCharacter.AIを創業しましたが、2024年にGoogleへの復帰ライセンス契約で戻ったばかりでした。わずか2年での再離脱は、Google内部の研究・事業方針への不満を示唆します。
OpenAIにとっては、Transformer生みの親の一人を迎える形になります。GPT系列はすでにTransformerベースですが、Shazeerが推進してきた効率的アーキテクチャ(MoEなど)の知見がOpenAIの次世代モデルに反映される可能性があります。
Google側のインパクトも大きいです。2017年の原著者8名のうち、Google在籍者はさらに減少しました。「人材がいるところにAIの未来がある」とすれば、OpenAIへの流れが止まらない構図です。
中国オープンウェイトモデルが急台頭 — Fable 5の空白を72時間で埋めにきた
Fable 5の輸出規制停止を受けて、中国発のオープンウェイトモデルが急速にポジションを埋めています。今週だけでも3つの大型リリースが重なりました。
Zhipu GLM-5.2: MITライセンス、744Bパラメータ(アクティブ40B)、1Mコンテキスト。Fable 5停止から72時間以内にリリース。「政府がリコールできないモデル」を明確に打ち出しました。
MiniMax M3: オープンウェイトでSWE-Bench Proの59.0%トップスコアを記録(自己申告)。100万トークンコンテキスト。エンタープライズ向けコーディングの実力を数字で示しました。
Kimi K2.7 Code: 1Tパラメータ(アクティブ32B)、256Kコンテキスト。コーディング特化でMoonshot AI(Kimi開発元)が前号のK2.7に続いて投入しました。
3つに共通するのは「オープンウェイト」「ローカル実行可能」「API停止リスクなし」です。前号でKimi K2.7-Code(6/12公開)を紹介したばかりですが、Fable 5事件を機に中国勢のリリースが目に見えて加速しました。
ここがポイントで、米国の輸出規制が意図した「AIの安全保障」は、皮肉にも中国のオープンウェイトモデルへの需要を一気に押し上げる結果になっています。「ソブリンAI」は単なるスローガンではなく、国のAI戦略の核心議題になりました。
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面白いと思ったポストや記事を紹介します。
VC Chi-Hua Chien「AIの真の勝者はAIを売らない企業だ」
6/17公開。Goodwater CapitalのChi-Hua Chien氏が、「AIそのものを売る企業ではなく、AIを使って既存ビジネスの効率を桁違いに引き上げる企業が真の勝者になる」という見通しを示しました。
背景にあるのは、LLMプロバイダー間の価格競争(Googleの$7.99→$4.99値下げなど)とコモディティ化の進行です。モデル自体では差別化できなくなりつつある。
要は「ゴールドラッシュでシャベルを売る」から「ゴールドラッシュでシャベルを使って誰より速く掘る」へのシフトです。SalesforceのFin買収($3.6B)はこのテーゼを裏付ける動きと言えます。
AI投資が「モデル開発」から「モデル活用」へ重心を移しつつある転換期を捉えた記事です。
Ars Technica / WIRED「危険なAIモデルは何があっても来る」
6/18公開。Fable 5の輸出規制を巡る論争のなかで、「危険な能力を持つAIモデルの登場は、規制で止められるのか」を掘り下げた分析記事です。
中心的な議論は「最先端モデルの能力はオープンソースに追いつかれるまでの猶予が短くなっている」こと。Fable 5の停止から72時間でGLM-5.2がリリースされた事実がこれを裏付けます。
規制論者と自由論者の双方の立場を丁寧に取り上げつつ、筆者は「規制の焦点をモデルそのものから、モデルの使用方法と監視に移すべき」と提言しています。
先週のPickup News⑤(中国オープンウェイトモデルの台頭)と合わせて読むと、「能力の拡散は不可避」という前提に立った安全保障戦略が必要だという結論に行き着きます。
HBR「How People Are Really Using AI in 2026」 — セラピー利用が1位に、13,000事例の分析
6月公開。Harvard Business Reviewが約13,000件のAI利用事例を分析し、2026年のリアルな使い方を報告しました。
最も注目すべき発見は、トップユースケースが2年連続で「セラピー・感情的サポート」だったこと(5%→11%に倍増)。コーディングや要約ではなく、感情面のサポートが最も多い使い方というのは、多くの人の直感に反するでしょう。
記事は「thinkslop」(認知的責任をAIに委譲すること)という概念を提唱しています。自分で考える代わりにAIに答えを求める傾向が増えている、という指摘です。
規模感のデータも印象的です。ChatGPTは9億の週間アクティブユーザー、Geminiは7.5億の月間アクティブユーザー。AIが「一部の人が使うツール」から「ほぼ全員が使うインフラ」になった現状が数字に表れています。
Goldman Sachs「AI設備投資は2026-2031年で$7.6兆」 — 投資の規模感を更新する
6月公開。Goldman Sachsが2026〜2031年のAI累積設備投資(CapEx)を$7.6兆(7.6兆ドル)と予測しました。2026年だけで$7,650億、2031年には年間$1.6兆/年に達するとしています。
内訳ではシリコン(半導体)が$5.1兆で最大。そのうちNVIDIAが75%(約$3.8兆)を占めると見ています。
4大ハイパースケーラー(Google・Amazon・Microsoft・Meta)の2026年CapExは合計$7,250億で前年比77%増。この数字は1四半期ごとの決算発表で上方修正が続いています。
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🏢 フロンティアラボ動向
Anthropic、Coworkの利用制限を2倍に無料拡大(6月中旬) — 開発者向けエージェント環境の上限引き上げ。
OpenAI、$150M Partner Networkを発表 — Accenture・BCG・McKinsey参加(6/16)
OpenAI、SEC にS-1を機密提出しIPO準備(Goldman Sachs & Morgan Stanley幹事)(6/8)
Google、Gemini CLIを終了しAntigravity CLIへ移行(Go製、マルチエージェント対応)(6/18)
xAI、「Grok for Government」連邦AI契約を締結 — 全省庁にGrok 4/4 Fastを18ヶ月提供(6/14)
Noam Shazeer、GoogleからOpenAIへ移籍(6/17) — Pickup News④参照。
🧠 モデル・研究
Gemini 3.5 Pro — 200万トークンコンテキスト、Deep Think推論モードで6月末リリース予定(6/15)
NVIDIA BlackwellがMLPerf Training 6.0で全ベンチマーク制覇(GB300、8,192 GPU規模)(6/16)
Codex CLI + GPT-5.5がTerminal-Bench 2.1で1位(83.4%)、Claude Code + Opus 4.8が2位(78.9%)(6/15)
Anthropic「When AI Builds Itself」— 本番コードの80%以上がClaude自身が執筆、再帰的自己改善への警告(6/15)
🤖 AIエージェント・開発ツール
SpaceX、Cursor開発元Anysphereを$600億で全株式取得へ — VC出資スタートアップ買収史上最大(6/16)
Android 17 + Gemini Omni正式リリース — Lyria 3音楽生成、AudioLM翻訳統合(6/16)
Agentjacking攻撃:Claude Code・Cursor・Codexが偽Sentryエラーで狙われる — 2,388組織に85%の成功率(6月中旬)
Workday、Claude Code/Cursor対応のDeveloper Agent + MCPベースコネクタ群を発表(6月初旬)
⚡ AIインフラ・半導体
フランス「AI Factory」構想を発表 — Mistral 44MW、SoftBankの€750億投資と連動(6/18)
Goldman Sachs:2026-2031年AI CapEx $7.6兆予測(6月) — Pickup Article④参照。
NVIDIA RTX Sparkスーパーチップ発表 — Grace CPU + Blackwell RTX GPU、薄型ノート向け(6月初旬)
Meta × Reliance提携 — インド初のAIデータセンター建設(ジャムナガル、168MW、100%再エネ)(6/10)
Google、SpaceXにコンピュート費用月額$9.2億 — Anthropicは月額$12.5億を支払い(6/16)
🎬 プロダクト・デバイス
Snap SPECS ARグラス$2,195を一般消費者向けに発表 — 51°視野角、4時間バッテリー、秋発売(6/16)
Apple WWDC 2026:Siri AIを発表 — Google Geminiが年間$10億で基盤モデルに(6/8)
iOS 27 Extensions — ChatGPT/Claude/Geminiからデフォルトアシスタントを選択可能に(6/8)
💼 ビジネス・雇用・経済
AI市場シェア(Sensor Tower):ChatGPT 50%を初めて下回る、Gemini 27.7%、Claude 10.3%(6月中旬)
Samsung SDS、Samsung Electronics全社でClaude Cowork / Claude Codeを展開(6/17)
⚖️ 政策・規制・安全保障・倫理
「Great American AI Act」(GAAIA)法案ドラフト公表 — 初の包括的連邦AI規制フレームワーク(6/4)
Microsoft Copilot脆弱性 CVE-2026-42824(SearchLeak)+ CVE-2026-45497(RCE可能)パッチ適用(6/14〜15)
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